7月26日:記入者 樋口裕也

数日前、大好きだった恭祐兄が、本当にあっけなく他界した。死因は、交通事故。
酔っ払いの運転した車が急カーブを曲がりそこね、道路脇に激突。それに巻き込まれ、ほぼ即死だった・・・らしい。
病院から突然連絡が入って僕はそれを知り、受話器を落としてしまった・・・。




大好きな兄を失ったショックは僕にとって、大きすぎた。
いつも一緒だった人が急にいなくなって、泣くよりも前に、喪失感が僕を支配していた。
とにかく、小さい頃からずっと一緒だったんだ。この悲しさは何て表せばいいかわからない。



あの人以外、僕の悲しみはわからないだろう・・・。




でも、残念だけど、彼を一番好きだった人は、僕ではない。
僕よりももっと傷ついている人がいるんだ。それが朝比奈和真さん。
二つ上の兄の親友で、僕が密に想っている人だ。
誰にも興味がないのか、それとも元々感情を表すのが苦手なのか、普段は愛想は悪くて、ちょっとこわいけど、恭祐兄に関しては例外で、彼と一緒にいたときだけ、ほんの少し顔が軟らかくなる。
その変化は本当に微妙なんだけど、僕はそんな笑顔
(と言うべきなのかな)を見て、好きになっちゃったんだ。
だけど、あくまでも僕の片想いだった。和真さんは、兄が好きだったんだ・・・。


恭祐兄は気付いているのかどうかは知らない。
こんな事になってしまった以上、真相は二度と暴かれることはないだろう。

だけど、僕は気付いてしまった。

それは、他の人なら見落としがちなのかもしれない。それほど些細なことだった。
恭祐兄を見つめる視線があまりにも優しくて、それを確信した。


しかし、気づかなかったほうがよかったのかもしれない。
皮肉にもそれがきっかけで、自分の気持ちにも気づいてしまったんだ・・・。





この、どうすることも出来ないもどかしい想いに・・・。



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