8月02日:記入者 樋口裕也
そんなことがあったので、僕と和真さんの呪いの鎖に縛られた生活が始まった。
僕と会うたびに和真さんの生気が抜けていくような気がする。
僕も和真さんもお互いを信頼することはない。一応表面上は仲よさそうに振舞っているけれど、僕らはお互い身体より内側に入り込むことはない、そうすることができない。
それが僕らの間に産まれてしまった呪いなんだ・・・。
「う〜ん・・・夏休みなのに、何で辛気臭い生活をしてるんだろうねぇ・・・」
「ラブラブになれる空気でないことは確かだな・・・」
確かにそうだけど。和真さんは僕と馴れ合う空気は全くないようだ。
僕と二人きりのときは、ただでさえ無愛想な顔が、ますます無愛想になっている。
でも、もう少し明るく振舞っても・・・ま、それをさせなかったのは僕だから、文句言える立場じゃないんだけどね。それでも・・・本当は・・・いいや。
僕にはそんなこと、言う権利などない。
「だったら・・・今からしよ?」
「あぁ・・・そうだな」
最初は嫌がっていたけれど、何度も身体を重ねているうちに、和真さんも拒まなくなった。
諦めたというべきなのかな?僕が望めば抱いてくれる。
あの人は乱暴なようで優しい。だけど、優しいようで意地悪だ。
最初はかなり痛かったので、ある程度主導権を握れたけれど、僕がセックスで感じて、獣のように鳴き声を上げるようになってからは、立場が逆転した。僕の弱いところを執拗に攻めてくる。
そして僕はもっと刺激を与えるようねだる。本当に淫乱な男だ、僕は。
和真さんを僕で溺れさせようかと思ったけど、僕のほうが溺れてしまった・・・。
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同日:記入者 朝比奈和真
この手で裕也を抱くようになってから数日、俺の中に巣食っていた罪悪感が薄れてきた。
それと同時に、裕也に対する愛しさ・・・というんだろうか?そういうものを感じるようになってきた。
いつの間にか命令だけでなく、己の意思でも抱くようになってきた。
あの日の夢を見る頻度も、段々少なくなってきた。
まだ恭祐のことは過去には出来ないけれど、現実を認めることが出来るようになってきた。
段々裕也のことがわかってきた気がする。小悪魔なようで、本当は繊細な少年。
そして・・・俺とは同族。
身体を重ねて自ら壊れようとする・・・。
俺は裕也を抱くことで、恭祐を見殺しにした罪を身体に刻み付ける。
裕也は何か目的があって俺に抱かれる。それは俺に対する好意ではないだろう。
おそらく・・・復讐。
恭祐を助けることが出来なかった。裕也は俺を恨んでいる。
でも、いいのだ。それで裕也が少しでも楽になれるなら、俺はそれを受け止めよう・・・。それがせめてもの償いになれば・・・。
「和真さん・・・どこか行こうか?」
「裕也・・・お前は何を考えている?」
最近裕也は俺を追い詰めるために回りくどい手を使うようになった。
俺を傷つけるために自身を傷つけている。
俺がどう思うかを知っているのだ。望んでセックスをするようになった俺に、気付きつつある。
しかし、気づかれてはならない。俺たちの間には、『復讐』という鎖しか存在してはならない。
すくなくとも、これが存在するうちは、裕也を抱くことが出来る・・・。
あいつがいた頃の裕也は、もっと素直で可愛かったはずだ。
いや、見掛けは相変わらずなんだけど、俺が好きだったあのきれいな心は荒んでしまったような気がする・・・。
これは今になって気づいたことだけど、俺は恭祐ほどではないが、裕也のことも好いていた。
兄に似たきれいな心は、純粋にいいと思った。兄を慕う裕也を、可愛いと思ったこともある。
それを言ったら恭祐は我がことのように喜んでいたっけ。ちょっとほめると調子に乗って惚気る。
「俺の弟は世界一なんだ」って・・・。俺の気も知らないで・・・。何度裕也に嫉妬しただろうな。
「身体の関係ばかりだと、さすがに僕も限界だからね・・・。だから気分転換にどこか行きたいかなって・・・和真さんが嫌ならいいけど」
「いや、残された俺たちがここまで暗いのもよくない。だけど、俺はお前を喜ばす場所を知らないんだ・・・だからお前に任せるよ」
「うん・・・ありがとね」
俺たちが不毛な関係になってから初めて裕也が見せた心からの笑みだった・・・。
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