8月10日:記入者 朝比奈和真
俺は嫌われていたのではなく、好かれていたらしい。
ずっと嫌われていたと思っていた俺にとっては驚きだった。
でも、返事する暇も与えずにあいつは帰ってしまった。
後から気の迷いだと謝ってきたけど・・・だったら、どうしてあの時涙を流していたのか。
どうして苦しそうな顔だったのか。
嘘をつくなら、もっと上手くついてほしいものだ。
確かに裕也との始まりは最悪と言ってもよかった。暗闇に沈んだ毎日を過ごしていたと思う。
でも、今となってはあいつのいいところしか思い浮かばない。
あの時、デートすると決まったときの心からの笑顔・・・俺はただ単に復讐の被対象としてでなく、彼に囚われてしまったらしい。
これは好きというやつなのだろうか。
でも、あいつの心の全ては復讐で占められていた。
俺は裕也にとって、復讐の道具でしかなかった。
恭祐を殺したのは俺のようなものだ。
だから、好きだという気持ちを素直に受け入れていいのかわからない。
俺はどうすればいい?俺はどうしたらいいか分からない。
恭祐・・・教えてくれよ・・・。
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8月11日:記入者 樋口裕也
どうしてあんなことを口走ったんだろう。
口にさえ出さなければ、僕はずっと抱かれることが出来たのに。
恭祐兄を失ったことをネタに、身体だけでも僕のものに出来たのに・・・。
和真さんを恨んでいないことを知られてしまった以上、もう・・・和真さんには相手にしてもらえない・・・。
本当は愛のない行為がどれだけ虚しいか知っていた。
まだ、それが仮のものであっても愛し合うことのできる風俗のほうがましだと言えるだろう・・・いや、誇りを持ってサービスしている彼(女)らに失礼だ。
だけど・・・認めたくなかったんだ。そんなのを認めたってしょうがないじゃない。
それで和真さんの心が手に入るわけじゃないのだから。
和真さんだって、兄を守れなかったという自責の念から仕方なく僕を相手してるだけなんだ・・・本来僕なんか見向きもされない存在であるはずだ。
でも・・・寂しいよ・・・。
和真さんを縛り付けたつもりでいたけど、本当に縛り付けられているのは僕自身なんだ。
和真さんは僕がいなければ幸せな人生を送れるだろうけど、僕は和真さんなしでは生きて生けないのかもしれない。
心も体も乾ききっているはずなのに、目は涙で何も見えない・・・。
恭祐兄・・・助けて・・・僕は・・・どうしたらいいの・・・ねぇ・・・教えてよ。
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