Nummer 10.5
「鷹司の奴に会って何をしてたんだ?」
家に帰ると冷え切った声で光輝兄が聞いてきた。
「別にあの人と会っていたわけじゃ・・・」
悪魔のようなあの人の形相を思い出し、俺は急いで否定した。
「・・・あいつから電話があった。
お前は俺に言えない事をしていたのか?」
穢れたようなものを見る目つきをした。
どうして・・・そんな顔するんだよ。
誤解を解かなければ、直感的にそう思った。
鷹司さんとの約束を破ることになるけど、光輝兄に嫌われるよりも・・・。
「そうか・・・」
それから彼は黙り込んだ。信じてくれたのかどうかは判らない。
「・・・仕組んだか」
苦虫を噛み潰して飲み込んだような顔だった。
どうやら兄は彼女の行動パターンを把握しているようだ。
そんなことにさえ俺の胸は焼けてしまいそうになる。
信じてもらえても、嬉しいとは思えなかった。
「あの人には何度も諦めるように言われた。でも・・・だめだった。忘れることも出来なかった。
光輝兄・・・好き・・・」
「は?お前が俺を・・・好き・・・?」
「うん。どうしても忘れることが出来なかった・・・だからお願い。俺のこと・・・」
「言いたいことはそれだけか?」
想像とは違い、見下すような兄の視線。かつて俺が告白したときもそんな冷たい視線はよこさなかった。
「最低だな。お前がそういう奴だったとは・・・知らなかったよ」
どうして、どうしてそんなこと言うんだよ!
言い返そうとしたら、彼は後ろをむいてしまった。
その背中は拒絶を表していて、俺はとうとうここを出て行かなければならないことを察した・・・。