Nummer twoelf〜消セヌ想イ〜


気がつけば俺から携帯を引ったくり、電話をかけていた。どこかと思っていたら・・・。

「あぁ、もしもし?光輝君だね。
君の弟さんをいただこうかと思ってね。
え?そんなのに許可は要らない?
一応許可をもらうのが礼儀だからね。
今どこか?家だよ。
見に来る?



僕はストレートかと思ったんだけど、結構瞬くんって・・・可愛いんだね。



男でもいいかと思ってしまうよ。
お肌もすべすべで、健康的だし・・・




思わず触ってみたくなる・・・









舌なめずりした彼に、文字通り俺は一肌脱がされた・・・。

「本人の意思?君には関係ないでしょ?それに、彼は拒まないよ。今も、僕が触るのを待っている・・・。じゃ」




何だか知らない展開に俺の理性が危険信号をつける。要するに俺は今とんでもないことをされるんではないか?そう思う暇も無く、気づけばベッドに押し倒されていた。

「・・・俺は拒むんですけど」

話についていけなかったけれど、一応拒絶反応をしてみた。そんな俺にぞくりするほど優しく、甘い笑みを見せた。

「拒む必要は無いよ。
前に言っていたよね、忘れたいんでしょ?


そんな辛い恋をしなくてもいいじゃない。
泣きたくても泣けない恋なんかしなくてもいい。



僕が・・・君を守ってあげる。



泣かなくてもいいように、君が笑っていられるように・・・君には泣き顔よりも、笑顔が似合う」


そんな言葉に俺はふと思い出した。






「心配するな。俺が・・・俺が瞬を守ってやる・・・」

「瞬・・・俺が・・・俺がお前を守ってやる!」







兄が俺に言ったものだった。
その言葉に嘘は全くなかった。今はこんな形になってしまったけど、ずっと彼は俺のことを守ってくれていた。




馬鹿だ・・・俺は馬鹿だ・・・兄が言ったあの言葉は、嘘でもなんでもなかったんだ!





あの時だって・・・本当は男と付き合う気なんかなかったはずなのに、
俺の為に「付き合って『欲しい』」と言ってくれたのに、
俺は恐いからってそれを信じないで・・・我が身可愛さにキモいと言った。





兄は・・・一度も俺にその言葉は使わなかった。





俺は兄の真摯な気持ちを踏みにじってしまったんだ!もしこの言葉を忘れていなければ・・・そう思ったけれど、もう手遅れだ。



でも・・・




「忘れたく・・・ない。
どんなに光輝兄が俺を嫌いでも、
俺にとって光輝兄は、
想い出は、
言葉は・・・何より大切なものだから!
もう・・・忘れたくなんかない!



どんなに辛くても・・・
それが幸せな恋じゃなくても・・・
一度忘れてしまったから・・・
俺は光輝兄のことは・・・
もう忘れたくないんだよ!






気がつけば涙声になっていた。今まで俺は本心を隠し通すことしか出来なかった。
でも・・・やっと本音が言えた。どうして今までこんな大事なことに気づかなかったのだろうか。




俺にとって光輝兄は何よりも忘れてはいけない存在なんだ。





「人は、いろいろなことを忘れる。でも、



生きてきた証を消すことは出来ない。



どんな嬉しいこと、悲しいことも、君を形作る大切な要素だから、それを欠かすことは出来ない。
君にとって光輝君がそれなら、君が望んでも僕が忘れさせることは無理だ・・・鵜飼先生が反対した理由、今なら解るよね」


「はい・・・。でも、俺が忘れるのは無理だとしても、やっぱり光輝兄には俺の気持ちは忘れてほしいんだ。
この気持ちさえなければ、俺は弟としてみてもらえる。これは・・・今でも嘘じゃないし、変えるつもりもないんだ・・・」





「本当に不器用な子だ。でも・・・諦めようね。君には僕がいる。決して独りじゃない。それを忘れてはいけないよ・・・」




ゆっくりと俺を抱きしめた。優しい腕だった。俺を心から思っているのが解ったから、気持ち悪くは感じなかった・・・


いや、何も感じなかった。俺は他人事のようにそれを見ていた。
本当にどうでもよかった。唯一つ思ったのは、この腕が兄さんだったらよかったのに・・・ただそれだけだった。





でも・・・その一方で、この腕に縋れたらどれだけ楽なのだろうと思う。
この人が本当に俺を愛しているのかはわからない。でも、苦しみからは逃れるかもしれない・・・。




「おとなしくなったみたいだね。どこから触ってほしい?」

「その・・・ひとつ聞いていい?兄のこと、忘れることができるの?」

「それは無理だよ。でも・・・そうだね。一時忘れることくらいはできるかもね」

「そう・・・じゃ、ずっと抱きしめてくれれば、忘れることができるかもしれない。いいよ、先生。あなたの好きなままに」



とまで思ったのは、俺の弱さ。目の前で俺を欲してくれる人がいるのなら、頼って何が悪い?



「その言葉、後悔することになるけど・・・?」

全部を預けてしまいそうになる俺を、やさしく諭す。
結局どんなに足掻いても俺が選ぶ道は・・・茨の道しかない。
いくら優しいこの人でも、俺の心に入り込むことはできない・・・それを思い出させてくれた。


「その・・・ありがとう。俺、本当に後悔するところだった・・・」

「さて・・・そろそろか」



鳩山先生の顔が一変する・・・。



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