Nummer dreizehn〜道・ソシテ・決意〜


「瞬・・・?それに・・・鳩山先生・・・?」

突然聞こえたその声に、俺の胸が裂けるのを感じる。
どう弁解しても信じてもらえるはずがない。
眼の前が血で染まってもおかしくはなかった。
いくら兄が俺のことをどうも思っていなくても、こんなところ、見られたくなかった。


「やぁ、早かったね。
これから始めるところなんだ。
どうせだから見ていくといい。
君の最愛の弟が男に掘られてよがっている姿を。



いや・・・見たくないか。



君にとって瞬くんは最愛でもなんでもないようだからね。
お茶、用意しようか?それとも、混ざるかい?DVもあるから、撮影していくといい」


淡々と話していた。優しい先生という空気は微塵も感じられなかった。





「瞬を・・・放してもらおうか」





殺気を丸出しにしているように見えるが、それでも何かをこらえているのがよく分かる。
こういうときは本当に怒っている。それだけで俺は押しつぶされそうだったけど、先生は小声で『心配しないで』と言った。


「それは出来ない相談だ・・・と言ったらどうする?」

明らかに先生は挑発している。兄の反応を楽しんでいるとしか思えない。




「力尽くで奪う・・・」




兄のそんな一言。
思い切り俺と先生を睨みつけている。
ただ血のつながった弟をどこの誰だかわからない人に盗られるのが嫌なのかもしれないけれど、それでも俺は舞い上がってしまう。もしかして・・・と望みを持ってしまう。


「君にその権利がないことは、自身がよく分かっているんじゃないかな?」

優しそうな先生らしくなく、ねちねちと突付いている。
一瞬返答に詰まったけれど、やっぱり俺の大好きな光輝兄だ。頑張ってほしいなんて思ってしまう。


「確かにあなたの言うとおりです。でも、逆に聞きたい。あなたなら瞬を幸せに出来るんですか?」





「それは愚問というものだ」





「解りました。それなら・・・瞬をお願いします。瞬を・・・幸せにしてやってください」





突然兄は先生に頭を下げた。
兄が頭を下げたのは初めて見たかもしれない。




ひょっとして・・・俺のため?俺が幸せじゃないから・・・?ずっとそのことを気にしていたの?





「それもまた・・・出来ない相談だね」

は?今の聞き捨てならない答えに、俺と光輝兄は目を見合わせた。
お互いの目を見たのは久々だ、なんて場違いなことを思ってしまった。






「残念だけど、瞬くんにはその気持ちがないようだ。
幸せになることが、僕に愛されることが幸せだとは思っていないようなんだよ。
この子の心の中には、誰かが住んでいる・・・。
僕はそれが誰であるかは知らないけれど、


この子はどんなに傷ついても、
それが苦しい恋でしかなくても、
その子のことだけを想うことでしか生きられない・・・



その位は解る。


本当に・・・哀しい子だよ。
目の前に逃げ道があるのに、
楽になれるのに、
自分から傷つく道しか選べない。



でも・・・幸せって人によって基準が違うから、僕に定義する権利はない・・・」


「誰か・・・そうか・・・瞬には好きな奴が・・・」




「とりあえず聞かせてほしいな。何故君はここに来たのかい?」




「何故って・・・それは・・・大切な・・・弟だから・・・」

「弟の恋路を邪魔しても仕方ないじゃない、『お兄さん』」

「勘違いしないでください・・・邪魔するつもりはありませんよ。
ただ俺は瞬に幸せになってほしい、それだけなんです。
でも、それが瞬にふさわしくない相手なら、俺はどんな手を使っても、たとえ瞬に嫌われても・・・



いや、すでに嫌われてますが・・・



別れさせるつもりです」





決意にあふれた言葉。
それが『兄』のものであったとしても、
今すぐ泣けてしまうほど俺は嬉しい。
結局俺はこの人が好きなんだということを思い知らされる。





「・・・その言葉だと、暗に僕が瞬にふさわしくないと言っている気がするね」

そんな言葉に先生は拗ねたご様子だった・・・。




「・・・やはりあなたに隠すことは出来ないんですね。その通りですよ。
俺にそんな資格はないことくらい知っている。
でも、あなたが瞬を愛していないのなら、任せることは出来ないんです。





もう・・・瞬には想うだけの恋はしてほしくないんだ!





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