Nummer vierzehn〜水ハ堰ヲ破ル〜
実に空気が重い。
二人っきりだから沈黙が痛い。
こういうときに鳩山先生がいてくれれば・・・と思ったけれど、それはそれで気まずくなるだけだろうと思い、俺はため息をつく。
「その・・・鳩山先生のところに戻ってもいいんだぞ?」
本当に気まずそうに光輝兄が口に出す。
どうやら俺が鳩山先生のことを好きだと勘違いしているらしい。
それで邪魔してしまったことに後ろめたさがあるようだ。
誤解を解かなければ、そう思ったけれど、解いたところでどうしようもないことに気づき、口を閉ざすしかなかった。
「それが嫌なら修一郎くんのところに泊まるか?」
俺が沈黙したのを見て、慌てて光輝兄が提案をする。そんな姿は可笑しくも感じたけど・・・
「・・・家に帰る」
そうか。それだけ言った。方向が違ったので、帰るのは独りになるはずだったけれど、兄は何故かついてきた。
どうしてついてくるの?聞くに聞けず、無言で歩いていくと、花屋の前を通りかかったので、つい立ち止まってしまった。
「なんか・・・あったのか?」
怪訝そうに聞いてきた。
「ここで買ったんだ」
勿忘草を。
隣にいる人を忘れるために。
隣にいる人に、忘れてほしいから。
それは数週間前の話だけど、昨日のことのように感じてしまう。
「結局・・・無理だった。
俺ね、努力したんだよ?
何度も忘れようって。
こんな気持ちは病気だから、
捨て去ろうって思ったんだ。
でも、そんなことを考えると、
光輝兄の顔ばかり浮かんで、
逆に苦しくなるんだ。
余計意識しちゃって・・・」
何度も言っているような気がするけど、今度こそしっかりと告白する。諦めようとか、そういうものではなく。
「光輝兄・・・好き」
「二股か。いいご身分だな」
とまで言ってから、はて?と考え直した。
少しぽかんとしていたけれど、今度は別のことを思い出し、ため息をつく。
「まぁ、二股というのは言いすぎか。これはお前から聞いたわけじゃないからな。
とにかく、俺は傷ついたんだぞ?人の気持ちを『冗談』と決め付けるから・・・せっかく勇気出して言ったのに・・・」
どうやらここまでこじれてしまった理由は俺にあることは間違いないようだ。
俺が彼に投げかけた言葉を思い出し、とんでもない暴言を吐いたことを思い出す。そして、恐る恐る聞いてみた。
「一応確認しておきたいんだけど・・・冗談・・・じゃなかったの?」