Nummer siebzehn〜アイトヤイバ〜


記憶を失う前と後。兄は俺の中に俺を探していた。

「それを・・・答えろと・・・?」

うん。即答すると、どうしたものかと考え込む。
そんなに難しい問題なのだろうか。
俺はただ一つ答えてくれればいいのに。
そうしないから不安が胸の中に押し寄せる。




もしかして・・・また俺の胸が焦げ付くのを感じる。






「どっちが?そう言われてもな。どっちもお前だろ?」





俺の不安が流されていくのを感じる。
どうして考えるのか聞いたところ、どっちが好きかを無理やり選ばなければいけないと思ったとのことだった。
兄を試すようなことをして悪いとは思っているけれど、それだけ俺のことを本気で考えてくれたのがうれしかった。

うれしかったはずなんけれど・・・まだわずかに違和感が残る。
まだ俺は真実を知っていない・・・何かがそれを告げる。
兄が言ってくれたその言葉を信じればいいのに、
幸せだと思っている自分と、まだはぐらかされたと思ってしまう自分がいて、
どうしようもなく愚かに感じる。

まだ・・・恐いのかもしれない。

自分の幸せを素直に受け入れることが出来ない。
光輝兄はそんな俺をどう思うだろうか。
それを聞こうとした。

でも、できなかった。

やっぱり嫌われるのが恐かった。
俺は兄の言うことを信じていれば幸せになれるんだ・・・。






「でも・・・気づいてるんだろ。





本当は・・・『お前』の中にお前を探してた。





お前が目を覚ましたら、何と言おうかと考えていた。
ベッドの前で馬鹿みたいに練習して、こう言ったらこう言おうと、ずっと考えてた。
でも・・・誰?って言われたからな。
本当に忘れてしまったんだと思うと、ショックだった。
だからその現実を認めたくなかった。それこそ、夢であればいいと願ったくらいだ。
それに、『兄さん』という響きがここまで苦しいものだとは思わなかった。





俺は・・・『兄さん』じゃなくて『光輝兄』と呼んでほしかった。





・・・お前に好きだと言ってほしかった俺がそこにいたことに気づいたんだよ。





あの日が終わらないでほしいと思ったのは・・・本当は俺のほうだったんだ。






一緒にいてやっと分かったけど・・・記憶があろうとなかろうと瞬は瞬だった。結局本質って変わらないんだな。
そんな単純なことすらすぐに気づかなかった。気づいたとき俺は馬鹿な男だと思ったよ。
でも・・・いや、だから、せめて『お前』の前ではいい兄でありたかったんだ・・・お前には俺の存在が刃でしかなかったから、





せめて『お前』には・・・哀しい想いはしてほしくなかったんだ。





それが偽りであっても、幸せでいてほしかった・・・笑っていてほしかった








胸が詰まりすぎて、泣くことすら出来なかった。
兄がここまで俺に気を遣ってくれていたなんて、知らなかった。
それなのに俺は自分ばかりを不幸だ、かわいそうだと思って。
しかも、俺の気持ちを受け入れてくれようとした彼に、キモいなんて暴言を吐いてしまって・・・。


「でも・・・そんな身勝手がお前を傷つけたんだな。本当に悪かった・・・」

ごめんといって頭を下げる。俺は怒るつもりはまったくなかったし、そんな権利もなかった。
確かに冷たくされたのはショックだったけど。
でもそれ以上に兄は苦しかったんだと思うと・・・そんな傷も俺には愛しいものになる。
光輝兄がくれたものだから・・・喜んで俺はその傷を記憶に刻み付ける。
ついでに・・・も一つ気になることが。






「鷹司さんとの関係は・・・?」



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