Nummer 4.5


俺の中で眠っていたもの、それを恋だと自覚した途端、限りなく膨らんでいった。
兄さんの一挙一動が俺の心臓を揺るがす。
『俺』を見ようとしない兄さんに、もっと『俺』を見て!そう言いたくなる。
あれから兄さんは俺の前にいるとき、苦しそうな顔をするようになった。

俺が未だに何も思い出さないからだろうか。

やっぱり兄さんにとって弟は『瞬』なんだ。



ただの疑問がその粋をでるのを止めることが出来ない。
兄さんは彼のことをどう思っていたの?
どんな声で彼の名前を呼んだの?
どんな想い出を共有しているの?
彼はどんな顔で兄さんに甘えたの?
彼は兄さんのことをどう思っていたの?
まさか好きだったの?
告白したの?それに応えたの・・・?いや、そんなことがあれば俺は兄さんに優しくされるはずがない。
じゃあ、どうして俺に優しくするの?俺が怪我人だから?
記憶を失って哀れだから?



それとも・・・器が『鷺沼瞬』だから・・・?



思い出さなくてもいいと言ったのに・・・辛い思いはしてほしくないと言ったのに・・・今俺は俺に嫉妬している。



そんな愚かな嫉妬に・・・俺はいつでも焼け死ぬことが出来る




恋の相手ではなくとも、弟として愛されている彼に・・・だから早く思い出すのだ。

もう一つ、変わった事がある。兄さんが、よくつまずく。
本人はもとから何もないところでつまずく性格だと言っているが、時々俺のいないところで苦悩していることは知っている。
どうしても俺に話せないような悩みがあるようなんだ。どうして『俺』に話してくれないの?『俺』じゃ、何の役にも立たないの?



やっぱり・・・・・あいつじゃなければいけないの?



そんなときその電話は鳴った。





「もしもし、あ、鷹司さん・・・?」

「瞬くん、元気?相変わらず忘れたまま?」

「はい・・・残念だけど、まだ思い出せない・・・」

「そう。ところで、光輝君はどう?目医者行ってる?」

「目医者?」

「あら、瞬くんは知らなかったの。何だか左目が変だって言っていたけど・・・瞬くんからも言っておいてね」



それだけ言って彼女は電話を切った。
俺は動くことが出来なかった。
兄さんの左目に異常がある?
もしかして、つまずくことと関係がある?
そう言えば、あの時も目に包帯を巻いていた。
今ははずしているから忘れていたけど、もしかして、兄さんの左目は・・・?







何気なく勿忘草を見た。ふと、何かフラッシュバックした。



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