とりあえず弟の問題には片がついた。しかし、もう一つどうしても解決すべき問題が残っていた。恋人である。倉科はいい子を探すと言っていたが、未だにそれが叶う気配がない。
「まぁ、果報は寝て待て、か」
それについては急がないことに決めた。倉科は自分の痛みを知っている。だから、早急なことはしないのだろう。倉科に恋出来たらよかったのに・・・そう思いかけて、急いで否定する。倉科に恋してしまったら、それこそ破滅の道しか残されない。倉科は親友として付き合うには最高の男だが、恋の対象とするには、いいところはない。今まで彼に恋した男の末路を嫌というほど見ている。期待させる様なことはしないのだが、恋は盲目とも言う。勝手に恋焦がれて勝手に恋敗れたものが何人いたことか。
「俺もやばかったな・・・」
さすがに二回連続で失恋はしたくなかった・・・。せっかくなのでいい男でも捜すか、あ、どうして男でないといけないの?そう思っていたところに。
あのー、と後ろからためらいがちに声をかけてくる人がいる。振り向くと、場違いな少年がそこにいた。コンパクトなサイズで、おっとりとしてそうな容姿。鋭くなく、ほのぼのとした瞳は妙に愛らしい。愛玩用に抱きしめたくなりそうだ。家にあるウサギのぬいぐるみを思い出し、一人苦笑する。
「君、どこの中学?見学に来たの?」
中学と聞いて、少年はますます小さくなる。まずいことを言ってしまったな、目の前の制服は自分の母校(高校)の制服だった。弟もそこに行ってるな、他人事のようにそれを思い出す。
「あ、悪い悪い。で、君は何用?案内なら向こうにあるよん」
「えっと・・・倉科先輩ってどこにいるか知ってますか?」
知ってなかったらどうするのか。大学みたいにむやみやたらに人がいるところで一人の人間を探すのは、自殺行為に等しい。少年はそこを分かっているのだろうか。
・・・と、驚くところが違ったことに気づく。倉科はどうやら超級の有名人だったらしい。同じ高校なら知っていても仕方ないが、どうやら世代を超えて語り継がれるらしい。追っかけだろうか?普通ただの追っかけだったら無視するのだが、この少年には無償で優しくしてやりたくなるような何かがあった。
「まぁ、こんな広いところを探し回っても行き違いになるだけだから、どこかで待ってようや」

倉科に電話したら、すぐ行くとのことだったので、待つことにした。よくよく見ると、彼のタイプに的中するんではないかという感じだった。一見素朴だが、よくよく見ると可愛いところがあるし、穏やかで、守ってやりたくなる。倉科はあからさまに可愛い子より、その魅力が表に出てこない、でも癒されるような子が好みだった。
しかも二人は知り合いらしい。倉科のほうが納得して駆けつけてきた。
「沙耶くん、俺が行くといったのに・・・」
「先輩の大学を見たかったから・・・」
そのはにかんだ笑顔が癒しだな、と思ってみる。これは純粋培養でなければ出来ない。ほほえましいとはいえ、そんな二人の空気に焦げ付いてしまいそうだったことも事実だった。亨は遠赤外線グリルを思い出し、こんなときにも自分は家庭的だ、他人事のように思う。
「あー、そこ?ラブシーンを展開しないで俺にも分かるように説明してくれないかね」
「分かったから拗ねるな。彼は榎木沙耶。いろいろとお世話になっている榎木教授の息子さんで、俺が家庭教師をしているんだ」
初めまして、にこぱっ、と形容するのがふさわしいような笑顔を向けられ、引きつりながら挨拶する。まぶしすぎる。
「あぁ、俺は宗像亨。倉科の親友様といったところだな。そーそー、一日だけ恋人をやってました」
お茶目に自己紹介し、よろしくといって手を差し出すと、一瞬だけ動きが止まったものの、向こうもそれを握り返してくれる。運命を感じつつも、さすがに親友の男に手を出すわけにもいかなかったので、一緒に帰ろうという誘いを固辞したのだった・・・。

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