「なんですと?沙耶ちゃんとデートぉ!?」
「・・・耳元で叫ぶな。教授が遊園地のチケットを手に入れたのはいいんだが、俺も教授もその日は忙しくてどうしようもないんだ。だけど、使わないのはもったいない。というわけで、お前行け」
「教授さん、それでいいの?あんたが息子のために買ったんだろ?」
「仕方ない。俺みたいな年寄りと行くより、君みたいな若い子のほうがいいだろう」
「あのー・・・最近男だからって安心できない時代なのよ?」
亨の言いたいことが伝わったのか、教授はしばらく値踏みするように見て、しばらく考え込む。相当悩んだのか、しばらくしてやっと口を開いた。
「君には息子が相当世話になっているみたいだから、仕方ない。俺も妻も最近忙しいからどうしてもおろそかになってしまってなぁ。どうか頼むよ・・・」
親公認でデートが出来る、教授に見つからないよう、にやりと笑った・・・。

「亨さん、遅れてごめんなさい・・・」
時計を見たら、十分遅れだった。学校帰りだったので、遅れても仕方がない。一度自宅に帰って着替えてきたせいか、沙耶の息が上がっている。実際に亨が来たのは二十分前だったので、彼は三十分待ったことになるが、そこまで苦痛にはならなかった。待つことがここまで楽しいと思ったのは、生まれて初めてだろう。弟と行くときは待ち合わせをしないし、倉科はいつも指定時間以前に来る。したがって、彼が待つことはほとんどなかった。
「気にするな。待ってる時間も結構楽しいからさ」
心の底からそう言ってやると、安心したような顔を見せる。
「その・・・ありがと。亨さんも忙しいのに・・・」
「だから気にするなって。俺は可愛い君とデートが出来て幸せなのよ?でも・・・なんで今日なのか聞いていい?」
可愛いと言われて赤くなっている一方で、聞いてはいけない質問だったのか、暗くなっているようにも見える。
「その・・・今日・・・僕の・・・誕生・・・」
誕生日なんだな!?つい大声で言ってしまうと、沙耶がおびえた顔を見せる。いつも亨はそんな声を出さないので、怒られたと思っているらしい。
「ごめんなさい・・・この年になって言えなくて・・・」
責められていると思っているのか、泣きそうになって謝る。
「そんなの俺は聞いていない!」

倉科と教授に嵌められた。亨が出した結論だった。人数分のチケット、休日に行けばいいのに、どうしてか日程を指定された。そこで気づくべきだった。これには裏があるということを・・・。聞かなかった自分が悪いと言えばそれまでだが、もしそれを知っていたらいろいろと準備をしていたのだ。恐らく倉科のことだから、真相を知って自分が怒ることも計算に入っているに違いない。そして彼は何食わぬ顔でこう言うだろう・・・『そういう約束だろ?』と。「亨さん・・・ごめんね・・・」怒りの矛先が自分に向いていると誤解しているのか、ひたすら謝る。「いや、沙耶ちゃんは悪くない。あいつの手の内で踊らされる俺が悪い。ま、時間はあまりないけど、どうする?今だったら一つ位しか乗れないけど・・・」
「じゃ、観覧車!」

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