「春樹・・・兄貴は?」
事情を知らない兄に聞かれ、一気に春樹は崩れ落ちる。
「顔・・・見たくないって・・・」
「嘘だろ!?兄貴がそんなこと・・・ありえないぜ、おい。春樹、お前何言った?あの兄貴がお前を嫌いになるなんて・・・そんなの地球崩壊よりも・・・うん、あるはずがない。あってたまるか」
「別に・・・」
「別にじゃねぇだろ!いい加減俺も怒るぞ?」
秋良も本気で怒っているようなので、仕方なく白状した・・・。
「そうか・・・。悪かったな。俺のせいだよ。つい兄貴に『春樹に嫌われたな』って言っちまったんだよな。まさか本気にするとは思わなかったからな・・・」
二人の仲をこじらせてしまったことに罪悪感を抱き、本当に申し訳なさそうに謝るが、別に怒る気にはならなかった。結局自分で言ってしまったという事実は消しようがなかったのだ・・・。

「亨さん・・・春樹のこと、許してやってよ」
沙耶がそう言った。様子がおかしいことを沙耶に感づかれたため、家出したことは彼には話してある。話していなくても、春樹のほうが言うかもしれないので、隠すつもりもなかった。
「許す?あいつは俺を嫌いなんだ。もう知らん」
「春樹が亨さんを・・・?嘘でしょ?」
「だって、そう言われたんだもん」
憮然として返す。春樹の放った言葉は、まだ亨の心に深々と突き刺さっている。自分が切り捨てたはずなのに、こうして傷ついている自分が嫌だった。
「あんた・・・今春樹がどうなってるか知らないだろ?」
弘平が亨の胸倉をつかんで迫るのを、他人事のように見る。そりゃ、恋人に最低のことをしたんだ。怒るのは当然だな。
「どうって?」
「もぬけの殻だよ。心、ここにあらずという感じさ。見ていて痛々しいよ」
「だったら、君が癒してやればいいだろう?」
もはや春樹がどう思おうと自分には関係ないというのが亨の率直な気持ちである。弘平という恋人がいるのなら、彼がどうにかすればいいではないか。これが最大のチャンスなのだ。
「出来るのなら・・・すでにやってるよ。でも、俺じゃ、だめなんだよ!俺が何言っても、あいつの心には届かない!悔しいけど・・・あんたじゃないとだめなんだよ!」
口惜しそうに吐き捨ててから、一筋涙を流す。そうだったな、弘平はそこまで春樹のほうが好きだったんだな、本当に申し訳なく弘平を見つめる。
「あんたには・・・俺がどんな気持ちだか分からない!どんなに努力しても勝ち目のない俺のなんか・・・。でも、それで春樹が笑っていられるなら・・・俺は諦めるから・・・だから、春樹を助けてやってよ!」
「柊くん・・・」
弘平はそう言うけれど、亨にはその気持ちが痛いほど分かっている。前の自分がそうだったから。兄だからこそどうやっても一番になれないと思っていたから。恐らく彼は自分以上に苦しんでいるのだろう。そんな彼の気持ちを無視するわけにはいかない。
「その、亨さん?僕が言うべきことじゃないんだけど、もう一度・・・話してみて?」

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