Side Koki
若いとは本当に羨ましい。最初は渋っていた瞬も、光くんの子犬のような目にやられて、ダブルデートと相成った。俺と秋本さんの年寄り組は早々に撃沈し、今は二人で楽しんでいる。一体今日の目的はなんだったんだろう・・・。
「本当に・・・なんとお詫びしたらいいのか」
俺たちのデートを邪魔してしまったことを申し訳なく思っているらしい。秋本さんはやっぱり謝った。
「いえ、こちらこそお二人のデートを邪魔してしまって・・・」
見たところ秋本さんはかなりやり手のビジネスマン。休みを取るのにも苦労したのだろう。それなのに・・・。
「いや、こちらのことは気にしなくてもいい。それより・・・君のほうが大切な弟さんを取られて・・・」
「いえ・・・。瞬が楽しそうなのは本当に久しぶりだから・・・これでいいのかもしれません」
俺が言いふらさないような人間だから、瞬にとって、自分を隠さないで済む友達が出来たということは、喜ばしいことなのかもしれない。でも・・・なんか寂しい。光くんじゃなくて、俺がいるのに・・・。もっとも、さっきまでの空気で楽しむこと自体無理があるのかもしれないか。瞬だってその場の勢いで言ったのだろうから、少し頭を冷やしたほうがいいだろう。
「君は瞬くんの事が・・・本当に好きなんだな」
は?俺は驚いて何も言えなかった。どこをどうしたらそうなるのだろうか。
「いや、瞬くんは片想いだと言っていたからな。だけど、恋人同士であるようだし、不思議に思っていたんだが・・・今ので納得したよ」
瞬は片想いだと言っていたのか。そうか、さっきのはその場の勢いじゃなくて・・・瞬の気持ちそのものだったんだな。俺も不甲斐ない男だ。瞬にそんな思いをさせていたなんて、今の今まで気づかなかった。俺は俺自身でそう決めたはずだったけど、自分がそう思っているだけで、瞬には伝わっていなかったのかもしれない。解っているはずだというのは、俺の甘えだ。俺はもっと瞬の気持ちを汲み取ってやるべきだった。
愛は卵のようなものだと思う。大事に温めないと、雛がかえることはない。カッコウなど、鳥の中には他の親鳥に温めさせるという、かなり図々しいものもいるけれど、この気持ちは自分で温めてやらないと伝わらない・・・俺は知らないうちに瞬に托卵させようとしていたんだな。
「別に・・・俺はあいつに何もしてやれてないのに・・・いや、傷つけてばっかりなのに」
どうしてそれなのに瞬は俺を好きなのだろう?
「いや、俺はそういう愛のあり方もいいと思うよ。俺の元彼もそういうものだったさ。無意識なんだろうけど、好きだってことが伝わってきたよ」
「で、その恋人さんは・・・?」
ただ寂しそうに天空を指差した。そして俺はそれが聞いてはいけない質問だったことに気づいた・・・。
「本当に・・・馬鹿だろう?生きていればいいことだってあるはずなのに、彼は自ら死を選んだ。もし彼が本当に好きな相手が誰であることに気づいていれば・・・いや、そんな仮定は意味がないか。とにかく、俺は恋情にこだわって本当に大切なものを見失ってはいけないと思う。君も瞬くんも若いから・・・いくらでも進んでいけると思うんだ」
どうやら俺が二つの感情で悩んでいることに気づいているらしい。それを知った上でくれた大人の意見に心底俺は感謝した。
「しかし・・・本当に楽しそうだな・・・」
苦虫を噛み潰したような顔を一瞬見せた。大人であることをアピールしていても、焼餅は焼くみたいだった・・・。
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