Side Koki
「・・・・・」
「・・・・・」
「ヒ・カ・ル・・・悪い子は調教しないと・・・」
隣の気温が絶対零度に達する。まぁ、その気持ちは解る。
「ははは・・・君も怒ってるかね?」
「・・・当然でしょう?俺の瞬を食べようとしてるんですよ?どこの誰かの恋人がね」
「お仕置き道具・・・貸すが?」
「・・・いいのを貸してください」
Side Shun
俺が組み敷かれていると言えばいいのか、光くんが俺に跨っているといえばいいのか、とにかくそんな危ない構図を光輝兄と秋本さんに見られた。光輝兄の眉間にしわがよっていて、俺は瞬時に凍りついたけど、光くんは大して動揺していなかった。
「光?こんなところで何をやっているのかな?」
目の前ではブリザードが吹き荒れている。顔は笑っているんだけど、目は猛禽類のそれだ。
「博、ちょうどよかった」
ごにょごにょと耳打ちすると、怒り狂っていた(であろう)秋本さんが幾分柔らかくなる。本当に幾分だけど。
「ほぉ・・・どうやら光の奴は久々に他の男を咥えたくなったらしい・・・しかも、瞬くんもまんざらではない・・・と」
途端、どこかで何かが切れる音がした。
「そんなに他の男がいいのなら・・・勝手にしろ!」
冷たい言葉で吐き捨て、光輝兄は立ち去ってしまった・・・。
「・・・相当怒ってるね、光輝さん」
「あぁ、それはご立腹だったな」
光くんは事態の重さに気づいて青ざめているけれど、秋本さんは非常に楽しそうだった。
「他の男とセックスしようとしているところを見てしまったんだ。怒らないはずがないさ」
今度こそ・・・嫌われた・・・せっかく兄が無理して付き合ってくれたのに・・・俺には・・・もう・・・何もなくなった・・・。俺は一気に崩れ落ちる。
「行かなくて・・・いいのかい?」
「今更・・・何をどう弁解すればいいんですか・・・」
行くのが恐かった。弁解したって・・・どうしようもない。前科もあるし、俺は誰にでも尻を振るようなやつに思われた・・・。
「何故彼が怒ったのか・・・考えてみたかい?本当にどうでもいいのなら、怒るはずがない・・・と俺は思う。とりあえず追いかけなさい。俺は怒っているのだよ。光が他の男に抱かれようとしたのだからな。今すぐ家帰ってお仕置きしなければいけないんだ。本当は君を殴りたくて仕方がないんだけどね、お仕置きは実の兄上にされた方が屈辱的で面白いだろう・・・」
凄惨な笑みを浮かべる秋本さんの隣で、光くんが軽くウインクを返してきて、それが二人なりの優しさである事に気づいた。
「博・・・優しくしてくれるよね?」
「それとこれとは別だ。俺というものがありながら他の男とやろうなんて・・・それがどういうことか、わかってるよな」
「ご・・・ごめんなさい・・・」
全身冷や汗を流している光くんを引きずって秋本さんは去っていく。そして去り際に一言・・・。
「瞬くん・・・自分に、自信を持て」
「待ってたってホトトギスは鳴かないよ・・・」
「お前、そういうの知ってるんだな」
「む、俺そこまで馬鹿じゃないよ?」
「そこまでと言うことは、ある程度は自覚してるんだな・・・」
言いたい放題言い合っているけれど、それがお互い好き合っている証拠であるように見えて、何か羨ましかった・・・。
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