The-egg-of-love


Side Shun

待ち合わせの時間はたしか10:30だった。今日は光輝兄とデートをする。場所は遊園地と、かなりベタなところだけど、これは俺のわがまま。本当は家から一緒に行きたかったんだけど、兄はどうしても朝のうちに大学に行かなければならなかったようで、現地集合ということになった。
まだ30分も時間があるけど、待っている時間もなかなか楽しい。大好きな光輝兄の声を早く聞きたいな・・・なんて思っている。

「誰か待ってるのかい?」

突然声をかけられた。その方向を向いてみると、その場に似つかわしくない人物がいる。服装は結構カジュアルなんだけど、スーツを着たらかなりのビジネスマンに見えそうな人だった。一言で言うとかなりクールそうな人だ。

「どうしてですか?」

思いっきり警戒して俺は聞き返す。相手に失礼かと思ったけれど、声かけられて困っていることも確かである。

「いや、あまりにもそわそわしているのが見えたからな。ひょっとして、恋人とデートなのかな・・・と」

「恋人なんて・・・。俺は兄を待ってるんです。それに俺が早く着いただけだから・・・そういうおじさんこそは」

動揺を隠して平静に答える。兄が恋人なんて言えるはずがない。

「お・・・おじさん・・・」

まずいことを言ったとは思ったけど、この人は想像以上に落ち込みを見せた。どう見てもこの人は20代だった。

「まぁいい。俺も待ち合わせをしてるんだ。10:00集合のはずだったんだけど・・・すっぽかされたみたいだ」

全く・・・と愚痴はこぼしているけれど、その人は彼にとってとても大事な人らしい。口は汚いけれど、瞳は優しさで満ち溢れている。何となく悪い人ではなさそうだ・・・。





その(恐らく)サラリーマンの秋本博さんは恋人を待っているらしい。その恋人はわがままで、ちょっとがさつで、口は悪い・・・と、悪口ばっかり出ているけれど、嫌いであるようには見えないので、これはノロケなんではないか?そう思えてくる。何か羨ましい。俺の恋人・・・というか、大切な人は男だから人前で自慢するにも言葉を選ばなければいけない。堂々と紹介することも出来ない。そんなことをすると、兄に迷惑がかかる。俺が悪く言われるのは構わないんだけど、やっぱり兄は巻き込みたくない。だから、どんな兄かと聞かれても即答が出来ない。

「俺の兄は・・・なんて言えばいいのかな。とっても優しい人だよ。こんな情けない俺でも見捨てないでくれるんだ。だから、本当に・・・モテるんだよ」

モテてモテて仕方がないのである。男にモテるようなことはない(はずだ)けど、女にはモテまくる。本人はウザいと言っているけれど、実はまんざらでもないことはよく知っている。本来はストレートなのだ。

「不躾なことを聞いていいかな?瞬くんは・・・そういう筋の人間なのか?」






俺の背筋が一気に凍る。秋本さんは俺の心に秘めたものに気づいている・・・。

「どうして・・・そう思うのですか・・・?」

聞き返すことを選んだ。肯定も否定も出来なかった・・・。

「いや・・・君の話し方が、俺の恋人だった奴に似ているんだよ。口では大したことを言っていなくても、その目が雄弁に物語っている」

まさか秋本さんの恋人は・・・。それを聞こうとしたけれど、やんわりと止められた。

「今の前に付き合っていた彼とは恋人同士だった。告白して、向こうも好きだと言ってくれて。だけど・・・俺よりも親友殿のほうが好きだったみたいだな。本当に大事に想っていたらしい・・・。俺の勘違いだったらすまない」

やはり、秋本さんの恋人は男であるらしい。それを隠さずに教えてくれた。つまり、この人を信じて正直に話してもいいようだ。俺は心の底からほっとした。

「俺は別に男が好きって訳じゃない・・・と思う。光輝兄だから好きになったんだ。でも、ひょっとしたら、男だからってのもあるかもしれない。諦めなければならないから、封じ込めないといけない気持ちだってことくらい知っていたから・・・」

「片想い・・・か」

「あ、でも、勘違いしないで!本当に・・・俺は幸せだから」

兄が俺の欲しがる気持ちで想っていなくても、受け入れてくれただけで充分幸せなのだ・・・。その気持ちに、嘘も偽りもない・・・。




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