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今日の光輝兄は、何だか大胆かもしれない・・・というか、俺が臆病なのか。
確かに二人きりになるのはいいけれど、こうやって言われてしまうと、やっぱり恥ずかしいものがある。




「嫌じゃないけど・・・」



「じゃ、決まりだな」



有無を言わせず、すたすたと歩いていく。彼の歩幅は大きく、俺は慌ててついていった。
どうも俺は光輝兄の後をついていくということが多いかもしれない。
だけど、前は絶対追いつかない気がしていたけれど、今は追いつくような気がする。
だって、光輝兄は待っていてくれるから・・・実際に彼は歩みを止めて、空を見つめていた。


「光輝兄・・・?」

「上、見てみろ」

軽く指を差したからその通り見てみると、額に何かふわっとしたものが当たった。
ゴミかと思ったけれど、落ち方に気品がある。
それ以前に、ごみなら彼が指差すようなことはないだろう。
しかもそれはゆっくりと、次々に舞い落ちてきた。ほのかに冷たく、片手ですくってよく見ると雪だった・・・。


「ホワイト・クリスマスだな」

これが北のほうだったら問題なく見られそうだけれども、暖かい都会では滅多に見られそうにない光景。
ビルの谷間にあるオアシスに降り注ぐ、恋人たちへの祝福。神様は俺たちのことを見ていてくれるのだろうか?


「光輝兄?俺たち、男なのにね」

「だからどうした?」

「俺が女だったら・・・」

いつものように口に出そうとした文句を、彼はそっと口に指を当て、止める。

「何、神様も真剣に生きている人を見捨てるほど狭量ではないさ。




それに・・・神がいなくても、俺がいるから問題ないだろう?」





今ものすごく恐ろしいことをいったような気がする。

確かにそのとおりかもしれない。

俺はいるのかいないのかわからない神様よりも、隣にいて俺を護ってくれる騎士様のほうがはるかに大切で・・・つい泣いてしまうかと思った。
もちろん、泣き顔は見られたくないから、あわせて引っ込めた。


「うん。何も問題ない。本当に光輝兄って俺のほしいことばかりくれるな。
俺、光輝兄のためなら命投げ出してもいいかも」


本当に本気だった。俺はたった一人の愛しいこの人のためなら、どんなことだってできる。
できるような気がする・・・んだけど、光輝兄は大して喜んではいないようだった。
むしろ、ご機嫌斜めといったほうが正しかった。俺は何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか?






「それは困るな」





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瞬が俺のために命を差し出す。むやみやたらにそんな言葉をはいてくれては困るし、そんなことがあってはならない。
彼には彼の人生があるから?それだけではない。

そんなことをされると・・・そうか、瞬にはわからないか。

本当に愛しい人を失いそうになったときのあの痛みは。


彼が持つのは、俺を好きになった痛み、苦しさ、そして俺が持っているのは、彼を失いそうになった痛み、置いていかれたという悲しみだろう。どちらが痛いかを比較するつもりはない。



でも、それは俺の中で最も痛く、苦しい出来事だった。



あの時俺の腕の中で眠っていった『瞬』のことを、今でも鮮明に覚えている。
忘れようとしたことはないけれど、仮にそうしようとしたところで決して忘れることはできないだろう。
しかし、皮肉なことにそれがなければ自分の気持ちにも気づくことはなかっただろう。
恋などが入り込むことすらできなかったこの俺の気持ちには・・・。


瞬はまだそんな俺の気持ちには気づかない。
いつでもあふれ出てしまいそうで、押さえつけるのに苦労するこの熱さなど、知る由もないだろう。
彼は彼で余裕などなく、自分自身のことで精一杯なのだから。



だけど、まだ知る必要はないのかもしれない・・・。



俺たちには俺たちにしかできない進み方がある。必要なときに自然に気づいてくれれば、それでいい。


「え?困るの?」

だから俺は軽くごまかすことにした。真相を知ったら『またはぐらかした』といって怒るかもしれないけれど、まぁ、このくらいはプレゼントとして認められるだろう。



「当然だ。もしお前がいなくなれば・・・抱けなくなる・・・」



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