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「・・・光輝兄・・・一応聞いておきたいんだけどさぁ、本当にここで食べるつもり?」

一時はホテルのレストランや、高級料理という案もあったものの、無難な線ということで、ファミレスを選んだようだけど、そこは人、人、人だった。
人間、考えることは皆同じのようである。
俺たちと同じことを考えている人間が、『最低』十数組みいるようで、俺たちは恐らく1時間程度待つことになるだろう。
デートで待つのならまだしも、食事で待つようなことは極力したくない。
入り口で待たされ、注文を待たされ、ということが目に見えている。


「・・・出るのが遅かったからな。嫌なら、家で食べるか?」

確かに俺のバイトがなければもう少しまともな展開となっただろう。
まぁ、過ぎてしまったものをあれこれ言っても仕方ない。

大切なのは、これからどうするか。

幸い昨日の残り物があるから家で食べれば手間もお金もかからないけど・・・それじゃ、デートの意味がない。
せっかくデートするんだから、やっぱり外で食べておきたい。


「それは嫌だけど・・・」

「仕方ない。どこかで買って、外で食うか?」

それが妥当ではある。うんと返事しようとしたところで気づいた。

今日は寒い。

とっても寒い・・・。

光輝兄に貼ってもらったカイロはあるけど、それでも限界がある。
衣服で隠せない顔が寒い・・・。


「光輝兄・・・寒くないの?ま、俺はいいけどさ」

もともと俺もそこまで寒がりではないから、光輝兄と一緒なら、ある程度、それこそ冷凍庫に匹敵するまでではない寒さなら、我慢できる・・・と思う。それは気合でカバーするつもりだ。
まぁ、我慢できなかったらその時はその時で仕方がない。
光輝兄で暖を取ることにしよう・・・まぁ・・・実際にそんなことをしたら、半殺しにされるだろうから、我慢するけど。


「寒かったら・・・まぁ・・・」

何故か口ごもった。聞こうとしたけれど、目が聞くなといっていた。
答えの一つを想像し、照れくさいのかな・・・と思ったけれど、妙にそれは殺気を放っていて、仕方なく俺はそれに従った・・・。






そんなわけで、当初はどこかファミレスにでも行こうかと思ったけれど、やっぱりこの日は人がすごく多かったため、ファーストフードを買って、どこか落ち着いた場所で食べることにした。
デートにハンバーガーというのも悲しいけれど、さすがにカップルが多い中で食べるのも嫌だった。
やっぱり男同士だから、堂々とそういうことができない。兄が俺と同じ目で見られると思うと・・・ちょっと。


「どうした?」

光輝兄の言うとおり、今こうして二人でいるのが不思議でならない。
俺はこの気持ちが叶うとは思ってはいなかったから、クリスマスなんてすっかり諦めていた。
多分普通にバイトをしていたと思う。それ以前に、光輝兄だ。彼はもともと男を好きになるような人ではない。
普通に女の人を好きになって、付き合っていく、そんな人だ。
だけど、今日の今、こうやって側にいてくれている。それって奇跡以外の何だというのだろうか?



それ以外の言葉があるのなら、教えてほしい。




「・・・もし俺が光輝兄に好きだって言わなければ、今頃綺麗な女の人と一緒にいたんだろうって・・・」



俺たちは公園のベンチに腰掛けた。
幸いなことに、そこは街中に比べて人が少なかったけれど、皮肉なことに、ここは以前、兄との『デート』で最後に行く『はずだった』場所だ。
そこで俺は最後に想いを告白して、彼は完膚なきまでに俺を振る・・・そうやって決着をつけるつもりだった。
だけど、それは行われなかった。その前に事故が起こってしまったから・・・俺は吹っ切ることは出来なかった。
もっとも・・・俺が事故に巻き込まれて、記憶を失ったから光輝兄は俺のことを大切にしてくれるようになったんだから、結果的にはそれがいいほうに転がったのかもしれないけど・・・とにかく、あの日のデートはまだ終わっていないのかもしれない。




「さあな。ひょっとしたらお前の言う通りかもしれないし、
逆に誰とも付き合っていないかもしれない。
そんな無意味な仮定より、俺は今お前と一緒にここにいるという事実を大切にしたいな」



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