FIRST
俺、鷺沼瞬が、実の兄である光輝に告白してから、一年近く経つ。
今から考えると、そして、今も思うけれど、本当に・・・秘められた恋だった。
当然、男同士だから、許されるはずがない。
もちろん、兄弟だから、許されるはずがない。
好きならば性別は関係ない、そう言い切れれば、どれだけよかったのだろう?
何度も思ってはみたけれど、残念ながら俺はそれが出来るほど強くはなかった。
兄の拒絶をひたすら恐れて、従順な弟であろうとした。
それが出来ていればどれだけ幸せだったかは、過ぎてしまったことなので分からない。
だけど、大きくなりすぎた想いは、風船のごとく一気に割れてしまうものである。
俺も、我慢しきれずに、光輝兄に告白してしまった。もちろん、普通は玉砕するはずだし・・・当然現実はそうなった。
俺は何度も後悔した。何故、告白してしまったのだろう?
どうして『弟』では我慢できなかったのか?
黙っていれば、それはそれで幸せだったのかもしれない。
弟として愛されるのあれば、『兄弟』を理由に側にいることが出来る。
本来だったら、そこから新しい恋を始めるべきだったのかもしれない。
だけど、光輝兄が好きだ・・・そんな気持ちは、振られたからといって枯れるわけではなく、己の記憶を封じるほど強くなった。
好きだから忘れたい、好きだから忘れてほしい・・・そんな気持ちを込めて贈った花、そして、俺たちの新たな一歩のきっかけとなったその花の名は、ワスレナグサという・・・。
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「悪い。本当に・・・済まない」
目の前で土下座をしそうな勢いで、光輝兄は謝った。今日は学校が終わってから、デート・・・というよりは、ただ遊びにいくといったほうがいいのかも知れない・・・をすることになっていたんだ。
普段光輝兄も忙しくてなかなか一緒に遊ぶことは出来ず、次空いている日は・・・と話し合ったところ、テスト前でもある今日になったのだった。
その日は何が何でも時間を空けてくれると言ったから、俺もしっかりと勉強をして楽しみにしていたんだけど・・・していたんだけど・・・。
(我侭なんて・・・言えないよな)
慌てふためく彼の言い訳を総合すると、どうやらゼミの発表の関係とやらで、呼び出しがかかったらしい。
だから兄は行かなければいかないようだ。本当だったら、無理やりにでも休んでほしかった。
別に特別なことはしなくてもいい。あまり俺も兄にそこまで望むわけにはいかないから、ただそばにいて抱きしめていてくれればよかったんだ。
だからそれを断れ・・・と、何度のどから出かけたことであろう。だけど、結局それは出る事はなかった。
「仕方ないよ。俺のことは気にしないで。ゼミのほうが大事だろ?」
俺にとっては気遣って出た言葉であっても、責任を感じていた光輝兄にとっては痛烈な皮肉になったらしい。顔をしかめて沈黙した。
誠心誠意で謝っている人間に対して言い過ぎたかな・・・そう思って何か返そうとした途端、光輝兄は携帯を出し、どこかに連絡しようとする。
「もういい。こうなったら休んでやる!」
どうやらゼミの人に電話するらしい。本気で休むようだ。
これは俺たちが『兄弟』を越えて付き合うようになってわかったことなんだけど、光輝兄は普段常識人な癖に、開き直ると常識をどうとも思わないところがある。
どうもそれは俺がらみのときに発生するようで、うれしいと思うときもあれば、ちょっと困るときもある。
ちなみに今は複雑な心境で、嬉しいという気持ちと、俺のためにそこまでしないでほしいという気持ちが仲良く同居をしていた・・・。
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