FOURTH



「白状するけど、俺さ、最初はそこまで本気でお前が光輝さんを好きだなんて思ってなかった。
だから、本当はお前に優越感とかいうのを持ってたんだ。
ホモに理解を示す俺って、なんて偉いんだろうって・・・」


苦しそうに出たその言葉に、俺は耳を疑った。
修一郎は本当にポジティブな人間だから、俺が打ち明けても嫌悪するそぶりは見せていなかったから、本当に俺のことを理解してくれてた・・・そう思っていたのに・・・思っていたのに・・・。
何か鈍器で頭をたたかれたような気分だった。
修一郎はそんな俺の心の動きに気づいたようだ。傷ついた様子を見せた。




「そうだよな・・・そんな俺は、嫌だよな・・・。

ずっとお前をだましていたんだから、瞬が俺のことを嫌うのも仕方ないと思う。

でも、これは信じてほしいんだ。

最初は、そうだったのかもしれない。でも、今はそんなことは思ってない・・・本当だよ。
話を聞いているうちに、普通に『真剣に恋してるんだ』そう思えるようになった。
瞬にはがんばって結びついてほしかった。人の恋路の応援をするなんて趣味の悪いことだけど・・・一生懸命やってる奴には、やっぱりそれだけのことがあってほしいし、そんな奴を笑えるほど俺だって悪人じゃないよ。だから・・・怒るなよ?

俺、光輝さんのことが嫌いだった。

何で瞬が一生懸命想ってるのに、返してやらないんだって・・・」


俺はそれを黙って聞いていた。そうすることしか出来なかった。
修一郎がずっとそんなことを抱えていたなんて、知らなかった。
だけど、それでも必死で理解してくれていたんだ。そんな彼を、否定することは出来なかった。
いつでも俺を励ましてくれていたけど、そこまで真剣だったなんて・・・というか・・・。




「別に好きになったのは俺の勝手だし、見返りを求めるなんて、変だよ」



好きになったから、自分のことも好きになってほしい、それは当然のことだ。
ただ好きでいたいのなら、告白など、する必要もない。ただ黙って想っていればいいだけのことだ。
でも、自分が好きになったから相手に好きになれと強制するのは、おかしい話だ。それはエゴだろう。




「瞬ならそう言うと思った」



修一郎が苦笑する。俺の気持ちは全てお見通しらしい。

「結局そうやって我慢し続けてきたんだよな、いつも。だから俺だって少しは返しやがれって思うよ。
まぁ、だから、こっそりと会ってみた訳だ」


軽く舌を出して笑う修一郎。そういえば去年、二人でこっそりと話しをしていたことがあった。
その後からなぜか二人は仲がよくなっていたけど・・・ひょっとして、このことが何か関係あるんだろうか。


「そしたら、考えさせられちゃった。人を好きになるって一体どういうことなんだろうって。
俺が瞬を好き、瞬が光輝さんを好き、光輝さんは瞬が好き・・・まぁ、俺のはあくまでもオトモダチです。
期待させてごめんなさい」


軽く紳士的に謝る彼に、俺は吹き出す。そんな俺を尻目に彼は窓の外から一枚名の知れぬ木の葉を摘む。
ただ手持ち無沙汰なだけで、その行為自体には意味はなかったようだ。


「俺は光輝さんの心は分からない。というか、光輝さん自身わからなかったのかもしれない。
だけど・・・こういうのは第三者でしかない俺が言ってはいけないのかもしれないけど、確かにあの人はお前のことを大事にしていると思う。
多少我侭言ったとことで、呆れることはないんじゃないかな」


ぺたっとその葉っぱを俺の額につけ『頭が冷えるだろう』と言う。
修一郎・・・やっぱり俺を励ましてくれてるんだ。
こんな情けない俺なのに・・・ありがとう・・・そう言おうとしたら、いきなり彼はオーバーアクション気味でまくし立てた。


「というかね、瞬は遠慮しすぎ。遠慮は時にとっても失礼なことになるのよ?
だって・・・よく考えて見なさい。相手のことを考える、まぁ、それは恋愛に限らず、人間関係においては大切さ。
そーゆう意味では、瞬が『光輝兄に嫌われるのは嫌っ!』ということで、一歩退いてしまうのは、仕方ないといえば仕方ない。

まして、相手は男であり、お兄様だもの」


ぐさーっと、痛いところを容赦なく突いてくれる。軽く痛そうな顔をした俺だけど、修一郎は無視して続けた。

「それに、俺だって図々しすぎる人間はあまり好みではないもの・・・あ、俺自身は除くけど。
ただ、好きな人の負担にならないように常に一歩離れる・・・一見美しい言葉だわな。
だけど、好きな相手によって与えられる『負担』だって愛しい人だっているだろうよ。
そんな人が『一歩離れた』恋人を見たらどう思う?」




「どう思うって・・・」



たぶん光輝兄のことを言っているのだろう、そのくらいは俺だってわかる。
だけど、そんなことは考えたことはなかった。光輝兄は、俺のことをどう思っているのか。『大切な弟』だという話は聞くけれど、俺に何を望むのかが分からない。解っていたら、俺だってここまで悩まなかったのかもしれない・・・それほど、光輝兄が俺と付き合うことに決めた理由は不明なのだ。


「光輝さんだったらそんな瞬だって愛しいなんか言っちゃいそうだけど・・・いや、確実に言うな、あの人は。
ただ・・・やっぱりさびしいと思うんじゃないかな。
だって、大切にしている奴がある線より前には入ってこないんだよ?
俺は、好きな人には甘えてほしいし、我侭も言ってもらいたい。
ま・・・甘える鷹司さんを想像すると鳥肌が立つことも事実だけど・・・」




「私のどこに鳥肌が立つのかしら?」





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