FIFTH



いつの間にか部屋の前に件の女性が立っていた。
修一郎の恋人ということで、鷲尾家では顔パスらしい。顔はにっこりと微笑んでいるけれど、こめかみがひくついているのを見逃すはずがなかった。




「俺に甘える鷹司さんの事が」



巻き起こる殺気に震えている俺を尻目に、修一郎は容赦なくそう放った。
これは地獄がおきるぞ、急いで避難しないと・・・そう思った俺だったけど、想像に反し彼女は納得した様子を見せた。


「確かにそれもそうよね。女だからって甘えればいいなんて、聞いてるだけで虫唾が走るもの」

と、笑いながらあっさりと切り捨てた鷹司女史だったけど、考えてみたらそれは修一郎の結論を覆すということになり、希望の光が見えてきた俺にはすこし・・・いや、かなり痛い言葉だった。

「でも、光輝くんって、かなり苦労人のせいか、結構世話焼きなのよね。
恋人が我侭を言うと、仕方がないと言いつつも顔がにやけてそう」


だけど、そんな俺に気づいたのかもしれない。苦笑しながらも鷹司さんはさりげなく付け加える。

「やっぱりそう思いますか、お代官様。
絶対あの人は自分で進んで厄介ごとを引き受けてしまう・・・そんなタイプですよね」


そしてそれは修一郎にも解ったのだろう。彼もフォローを入れる。こっちはわざとらしくはあったけれども・・・。

「そうなのよ、越後屋さん。しかも好きな相手だったらそれを厄介ごとだと思わないという、かなり重症な部分もあるみたいなのよ。尚且つ、会わせろといわれても、全然会わせてくれないし」

「そりゃそうですよ。純粋無垢な瞬を鷹司さんの毒牙の被害に遭わせるわけにはいかないし」

『あはははは』と悪辣な笑いを浮かべる二人。
どうやら俺のことを『厄介ごと』扱いをしているけれど、それはそれで怒ろうという気にはならなかった。
やっぱり励ましてくれている気がして、心が温かくなる。






「瞬・・・俺が・・・俺がお前を守ってやる!」





かつて兄はそう言った。
その言葉は、嘘も偽りも存在しなかった。
だから俺はその言葉を支えにずっと生きてきた。
どんなに辛いことがあっても、その言葉を思い出すだけでがんばってこれた。
光輝兄・・・俺は信じていいんだよね。
まだ見捨てていないよね。
ずっと俺だけを・・・守ってくれるよね。
自信はないけれど、帰宅したら俺は光輝兄に謝ろう。
酷い言い方をしたことを謝って、許してもらおう。


「そういえば光輝くん・・・一人で歩いていたけど、一体どうしたのかしら・・・?こんな日に一人というのもおかしいよね」



『え!?』



ふと何か思い出したかのように出た鷹司さんの問題発言に、俺たちは顔を見合わせた。
確か・・・光輝兄は・・・ゼミの発表がある・・・はずで・・・?


「あら、地雷を踏んでしまったのかしら・・・」

不穏な空気が漂った俺たちに、さすがの鷹司さんも冷や汗を流したのだった・・・。





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