THIRTEENTH



腕の中で青い花を揺らしながら、俺は光輝兄を探した。
どうしても謝りたかった。謝らなければならなかった。
たとえ知らなかったこととはいえ、光輝兄の心を無駄にしてしまったのだ。
でも、やっぱり不安だった。

謝ったところで『お前なんかに興味はない』と言われたら?

『嫌いだ』と言われたら?

そんなことを考えると足が動かなくなりそうだったけれど、この花が励ましてくれているようで、何とか勇気を絞ることが出来た。
光輝兄が行きそうなところは・・・考えてみたけれど、全く思いつかなかった。今まで俺は光輝兄の何を見ていたのだろう。
ずっと近くにいたからと、弟だからと知った気でいて、何も見ようとはしていなかったのではないか。
光輝兄はいつも俺を見てくれていたのに、俺は何もしてやれない、そんな歯がゆい気持ちが襲ってくるけれど、今は彼を探すのが先だ・・・と思ったら、目の前に見覚えのある後姿がある。




「修一郎?」



残念だけど、光輝兄ではなく修一郎だった。彼は一人で、本来隣にいるはずである鷹司さんがいなかった。

「って・・・瞬じゃないか。独りで何してるんだ?」

「そういう修一郎こそ鷹司さんは」

俺が独りでいることにはあまり触れて欲しくなかったので、ごまかすために質問する。すると彼は苦笑いして頭をかく。

「まぁ、あれですよ。長い時間俺といるのも飽きるんでしょ。とっとと俺を置いて帰りやがった」

修一郎の言葉に、傷つく俺がいる。それは修一郎と鷹司さんの話なのに。もともと彼らは自由奔放なカップルだから、それは全然おかしくなく、むしろ自然体なのに。自分に重ねて、心が痛くなった。

「で、何で瞬は独りでいるの?光輝さんはどうしたんだ?」

話を変えようと思ったけれど、その努力は無駄だったらしい。気づいていたのか、修一郎が話を戻す。



「それは・・・触れないでくれると嬉しいんだけど」



「そうなんだよね。俺としても迷ったんだよね。いくら俺だって、聞いていいことと悪いことがあることくらい知ってる。
だから瞬が望むとおりごまかされてあげようと思ったけど・・・でも・・・今何も聞かなければ、後悔すると思うんだ。だから今は無理やりにでも聞きます」


修一郎は優しい。普段は自分の楽しみのためには他人を犠牲にしてもかまわない男だけれど、こういう俺が辛い思いをしているときには、何かしら手を差し伸べようとしてくれる。
本人は『恩を売るためだ』と豪語しているけれど、それだけでないのは長い付き合いである俺にはよくわかっている。


「と、いっても、実は聞かなくても大体想像は出来るんだけどな。大方光輝さんと喧嘩でもして、一人取り残されたっていうオチだろ?」

ぐさっと、容赦なく修一郎は俺の痛いところをついてくる。勿論、俺に否定することは出来なかった。

「うーむ、図星か・・・それまた何で?」

だけど、その理由は解らなかったらしい。もっとも、それは仕方のないことなのかもしれない。
修一郎は他人からの厚意は素直に受け入れるし、おまけに信じると決めたらまっすぐに信じる・・・そんな男だ。俺が悩む理由を理解できるとは思えない。だから俺は苦笑して白状する。


「今となってはすごいくだらない理由なんだけど・・・光輝兄とホテルに食事しに行ったんだけど、光輝兄が慣れてるから、俺は『他の女と行ってたんだろ?』って言っちゃったんだよね。そしたら光輝兄は激怒。俺を置いて先に帰ったんだ。
ほんと、情けないよな、俺。誰よりも大切な光輝兄を信じることが出来ないの。こういうとき修一郎ならうまく振舞うんだろうな・・・」


修一郎にとっては、笑い飛ばしてしまうようなことなのかもしれない。今になって考えると、それだけくだらないことだった。だけど、俺は話していた。



それだけ心に溜め込んでおくのが辛かった・・・。





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