ＦＯＵＲＴＥＥＮＴＨ



修一郎は大人しく話を聞いていた。
いつもだったら何らかの形で茶々を入れる彼だけど、今回ばかりは俺が言っている間は何も言わなかった。
それだけ真剣に聞いてくれていることがわかった。俺が話し終わった後も、しばらくは無言だった。
口を開いたのは、少し首をかしげた後だった。



「そんなにくだらないかな。まぁ・・・光輝さんを信じないお前も悪いといえば悪いんだけど・・・好きなら不安に思って当然だろ？
何か俺らを基準にして考えてるみたいだけど、俺と鷹司さんがやりたい放題やっているのは、俺たちは割り切った付き合いをしてるからだし。

でも、お前らは違うんだろ？
ノリというのじゃなくて、ちゃんとしたお付き合いをしてるんだろ？
だったら不安に思って当然だと思う。
それに・・・瞬の場合、丁度いいんじゃないの？
嫌われたくないからってずっと我侭言わなかったんだろ？
大人しく光輝さんの言うことを聞こうとしてるんだろ？
そういうときに言わないでどうするんだよ。
思っていることって、ただ思っているだけでは伝わらないんじゃないの？
言いたいときにはしっかりと言えばいいんじゃないか？
付き合うってそういうことだと思う。それでだめなら、その程度のお付き合いってことさ。
ま、どっちも本気じゃなかったってことになる。早く別れたほうが傷も浅いね」

『悪い言い方だけど』と付け加えた修一郎だけど、それだけ俺のことを心配しているのが伝わってきて、腹は立たなかった。それどころか、ここまではっきり言ってくれる修一郎に感謝したい。

「でも・・・光輝さんがお前と付き合っているのに他の女と付き合うか・・・それは俺よりも瞬のほうが解ってると思うけど」

修一郎の言うとおりであることはわかっている。光輝兄は誠実な人間だ。二股かけるようなことはしない。
だけど・・・それはあくまでも男女間の付き合いでの話だ。
やっぱり俺は男だから、どうしてもその可能性を捨てることができない。もしかして、と思ってしまう。
うじうじと考え込んでしまう。

「ま、こればっかりは理性で割り切れるものでもないから、仕方ないか。
でも、俺は光輝さんが浮気するとは思えないんだよ。本当に女と付き合うんなら・・・瞬と付き合うことを選ぶはずがないだろ？」

「うん・・・そうかもしれない」

修一郎の優しさに触れ、俺は当たり前の事実を認めることが出来るようになる。

「それには瞬も本当は気づいてるんだろ？でも、謝ることが出来ない。それなら、俺がついていってやろうか？」

突然の提案。人付き合いの上手な修一郎がいれば自然と空気を変えてくれるから、謝りやすくなるのかもしれない。
光輝兄もなんだかんだ言って彼のことを気に入っているようだから、あまり酷いことは言わないかもしれない。
だけど・・・それをしてはいけないことくらい俺だって解っていた。

「気持ちは嬉しいけれど、俺独りで行くよ。今修一郎を頼ったら、多分俺、ずっと光輝兄から逃げ続けることになると思う。
だから、辛くても俺自身がどうにかしないといけないんだ」

今まで俺のことを見てきてくれた光輝兄。その誠意に答えるには、一人で謝らないといけない。
修一郎に手助けして欲しくないわけではないけれど・・・今彼を頼るわけにはいかなかった。

「そっか、それならそれでいいんだ。がんばれよ。でも・・・」

それから彼はゆっくりと俺を抱きしめる。避ける暇がなかった。でも、不思議と剥がそうとは思わなかった。

「ぼろくそに振られたら、遠慮しないで俺のとこに来いよ。いつだって慰める準備は出来てるから・・・」

いつもとはほんの少し違うジョークで、彼が俺を心配しているのがわかる。
光輝兄ほどでもないけれど、修一郎は優しい。その優しさとポジティブさに何度俺は救われてきたのだろうか。

「ありがとう、修一郎・・・」

でも、今日の修一郎は怪しいほど優しい。ひょっとして・・・。

「誕生日プレゼントのつもり？」

照れくさそうに光輝兄に耳打ちしたのを思い出した。これで今日の修一郎の行動につじつまがあう。

「・・・バレタ。その通り。瞬のことだから忘れてると思ったんだけどな」

「いや、実際に忘れてたから」

即答すると、納得した様子を見せる。

「そりゃそうか。覚えてたらこんなところにいるはずないな。ま、俺の所にこないことを祈ってるよ。
万が一そんなことになったら、俺は焼餅焼きの誰かさんにこの世界から消されるし」

何かに怯えるように震える修一郎。でも、どこか楽しげで・・・俺はそんな彼にもう一度お礼を言って光輝兄を探しに行った・・・。





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