SIXTEENTH



骨がきしむほど強く、光輝兄は俺を抱きしめる。その強さから彼の気持ちが伝わってきて、俺の態度が光輝兄を苦しめていたことを知る。
俺ばかりが辛いと思っていたけれど、俺に疑われた光輝兄はもっと辛かったんだ・・・。


「その・・・ごめんなさい・・・」

条件反射で謝ると、兄はくしゃっと髪をかき回す。

「だから、謝るなって・・・あぁ、怒ってるわけじゃないから、そんな顔をするな。
いいか、俺は基本的にホモじゃない。いくら弟と付き合っていても、女の子に目が行かないはずはない。
だけど、今、どんな女を見ても起たないんだ。白状するけど、時々店で立ち読みするよ。
だけど・・・全くダメなんだ。おかげで、ずっと悩んでるんだからな?ひょっとして俺は・・・。
でも、お前を見ると・・・どうもそういうわけではない。その意味、分かるか?」




「えっと・・・」



なんだかとてつもなく嬉しいことを言われていることは分かる。
だけど、それは俺の思い違いかもしれない。態度では示してくれるけれど、中々気持ちを言ってくれない彼・・・そんな光輝兄がそこまで気前がいいのは、変だ。
好きな人のいうことは信じなければいけないのだろうけど、それだけ現実だとは思えなかった。とにかく、光輝兄の言葉を待った。待つしかなかった。




「つまり・・・責任取れよ、ってことだ」



え?ほんとに?放たれた言葉を何度も反芻する。俺の聞き間違えではなかろうか?
嬉しさのあまりやっぱり現実には思えないな・・・そう思いかけたところ、激痛が襲い、夢でないことを認識する。


「痛い!痛いって光輝兄ぃ・・・」

しかもその手は緩むことはなく、一回転する。

「だ、だから・・・」

『お願いだからやめてください』と懇願して、やっと光輝兄は手を離してくれた。赤くなったであろう頬をさすりながら俺は愚痴る。

「そんなに強くしなくてもいいのに・・・」

本当は・・・その痛みが現実だと教えてくれるから、嫌なわけではないけれど。そんな俺に光輝兄は呆れながら一言。

「夢みたいだ、と顔に書いてあるからだ。ったく、そこまで俺が信じられないんですかね。お兄さまは哀しくて仕方がない」

それは詰問ではなくて、拗ねだった。





「だって、仕方ないじゃないか。そんな俺にとって都合のよすぎる話なんて信じられないし・・・」





だから、拗ね返したけれど、予想に反し兄は沈痛な面持ちとなった。
この沈黙が嫌だった。早く何か言って欲しかった。
そうでないと『痛み』が夢の中でのものとなってしまいそうで怖かった。
そんな俺の気持ちを知っているのかどうかは解らないけれど、光輝兄はしばらく沈黙してから、哀しそうに口を開いた。


「そりゃ、そうだよな。考えてみたら・・・それが現実なんだよな。
何度も瞬を傷つけて、泣かせて・・・俺がお前だったらそう簡単に信じられないかもしれない。
もっと俺がしっかりしていれば、お前をここまで不安にさせることはなかったのにな・・・。不甲斐ない兄で、ごめんな・・・」


いまだにそんな自分を悔いているのか、謝る光輝兄。
彼の心の中にある苦しみ、俺には決して見せてくれなかったそれに、少しだけ触れたような気がする。
だけど、そんな言葉も愛情一杯に聞こえて、俺は首を振って否定する。


「ううん。俺はそんな光輝兄も好きだから・・・」

確かに常識人である光輝兄に苦しんだこともあるし、二度とそれはないとは言えない。
光輝兄が光輝兄である限り、それは避けて通れないだろう。
けれど、そんな常識人な光輝兄だって、俺とのことを真剣に考えてくれる。俺が追いつくまで待ってくれている。

だから・・・俺はどんな光輝兄だって好きなんだ・・・。





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