SEVENTEENTH



やっと沈黙を破った光輝兄だったけれど、俺の言葉に『そうか』とだけ言って再び沈黙する。
さっきの嫌なものとは違い、何となく不自然だった。光輝兄の視線が泳いでいるような気がした。
そんな彼を目の前に、俺の居心地も悪くなる。何か嫌なことでも言ったのだろうか?


「光輝・・・兄?」

勇気を絞って聞いたけれど、光輝兄は最初口を開かなかった。俺にじっと見られて、やっと重い口を開く。



「いや・・・何かすごく嬉しくてな」



わざとらしく咳払いした彼は、照れているような気がした。それにつられて、俺は一気に沸騰してしまう。



「それ、その顔!反則だって!あぁ、もう!これ以上光輝兄を好きになったらどうすればいいんだよ!」



時々見せるその表情、いつもとちょっと違った光輝兄、それが俺をどんどん深みにはめていくんだ。
本人が意識していない分、タチが悪い。この人は自分がどれだけ魅力的なのか、気づいているのだろうか。




「・・・何か問題でも?」



本当に光輝兄はさらっと答えてくれる。彼は俺よりもはるかに高い次元でものを考えている。
だから、俺がずっと悩んでいたことでも、彼にとっては本当に些細なことでしかないのだ。
それが嬉しくもあるけれど、時々辛いと思うことがある。いつもはそんな答えには『問題ない』と言うだろうけれども、今日はそう言うことは出来なかった。それだけ不安が強かった。


「問題、あるよ。だって、光輝兄、ホモじゃないじゃん。だから、いつか終わりだって来る。
怖いんだよ。これ以上光輝兄を好きになったら、俺、もう光輝兄を離してあげることが出来なくなっちゃう。
それに、光輝兄には嫌われたくないし・・・今の位置が丁度いいんだ」


今までが偽りだということはないけれど、これもまた本音だった。
光輝兄が俺を愛してくれるのは嬉しい。だけど、愛されれば愛されるほど、俺は貪欲になってしまう。
最初願っていた・・・ただ側にいてほしいという望みだけでは、満足できなくなってしまう。
どんどん彼を縛り付けるようになってしまう。光輝兄の好きな『兄に従う弟』ではなくなってしまう・・・。


「何か終わることばかり考えてるけど、別に・・・俺を離さなくてもいいだろう?
俺は同情でお前と付き合ったわけではないさ。

いや・・・正直に言うと、最初はそうだったのかもしれないけどな。

俺への気持ちを閉じ込めるために記憶まで失った・・・それなら、俺は出来る限りのことをしてやりたい、瞬の笑顔が曇らないようにしてやりたい。だから同情がないとは断言できない」




『同情』この言葉に傷つくのを隠すことが出来なかった。
ずっと解っていた。光輝兄は男を好きになれる男ではないから。
普通の女の子と恋愛をして、結婚する・・・それを当たり前だと思っているから。
彼が俺と付き合うことを選んだのは、男に狂った弟が哀れだったからだ。
光輝兄は本当に・・・涙が出るほど優しいから、放っておくことが出来なかったのだろう。そのくらい、解っている。
でも、光輝兄の口から出て欲しくなかった。心の中にしまって欲しかった・・・。




「同情・・・なんだ・・・光輝兄って本当に優しいね」



今日、何回目かになる俺の皮肉に光輝兄が痛そうな顔をする。
いつもの『いい子』でない俺に戸惑いも覚えているのだろう。
いつもなら俺は光輝兄の言葉を『素直に』信じるから。彼にとって都合のいい弟でいるから。
でも、そんな顔をしているけど、本当に痛いのは、光輝兄よりも・・・俺なんだよ?



「そうだな・・・これについてはお前の言うことは甘んじて受けるよ。
悪いのはどう考えても俺なんだから。今の言葉に傷ついたのなら、謝るよ。
でも・・・いくらなんでもそれはきっかけでしかないだろう。
考えてみろ?同情だけで男同士、しかも兄弟で付き合い続けていられると思うか?悪いけど、俺は勘弁だ。
でも、現にこうして付き合ってる。しかも、結構続いてる。その意味は分かるか?俺が付き合いたいと思って付き合ってるってことだ。


まぁ・・・本当はお前の気持ち、解らないわけではないんだ。

普通に最初から問題なく付き合っていれば、こんなことにならなかったのかもしれない。
俺が最初に拒絶したから、素直になれないってのもあるのかもしれない。それは、本当に悪いと思ってる。
だけど、俺の言い分も聞いてほしい」



まっすぐ、俺自身を貫くほど強い眼差しで見つめる彼。いつもの『優しい』光輝兄とは違う、真剣そのものである光輝兄に、俺は頷くしかなかった・・・。





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