EIGHTEENTH



何も言わずに首を縦に振る俺。『素直な俺』に光輝兄の真剣なまなざしが少しだけやわらかくなる。
その代わり、少しだけ苦悩の色が浮かんでいるように見えるのは、俺の気のせいだろうか。気になった。聞きたかった。光輝兄が何を抱えているのか。
だけど、そんな光輝兄を前にして俺の口が動かせるはずがなかった。


「俺はお前が我侭言っても、別に文句を言うつもりはないんだ。
もちろん、何でも願いをかなえるのが愛情だってことはないから、度が過ぎたものは断るけれど・・・それ以外なら、できる限りのことはしたいと思ってる。これは、本当だ。
だけど、お前はそこまで贅沢もしないし、わがままも言わないだろう?言ったところで、程度の軽いものか、すぐ取り消しの聞くようなものを選んでる。
欲がない?違うな。お前は抱えているもののほんの一部しか俺には見せていないんだ。あとは、自分自身でどうにかしようと押さえつけている。瞬は、それを俺のためと思ってるのかもしれない。
だけど・・・俺の気持ち、考えたことはあるか?」




俺はいつも光輝兄のことを考えて・・・それを言うことは出来なかった。
それを言ったところで、彼にとっては負担でしかないだろう。それ以前に、本当に光輝兄のことを考えていてやっていたのだろうか?ふと、疑問に思った。そう思えば自分はいい人だと思ったり、これ以上前に出て自分が傷つくのが嫌だったり・・・そういうことは思っていなかったのだろうか。
俺は自分のことで精一杯で、本当の意味で光輝兄のことは、考えていなかったのかもしれない。


「もちろん、俺のためにそうしてくれてるというのは、解ってるよ。
あからさまではないけど、俺のことを想ってくれての決断だってのも解ってる。
だから、そんなお前に対して言うのは、おかしいのかもしれない」


しばらくの間、光輝兄は沈黙する。それが前置きであることは俺にもわかる。
いつも態度で表す光輝兄が口で表すということは、それだけ言葉を選んでいるということだ。
これから言うことは光輝兄の本当の気持ちなんだろう。俺はそれを受け止めないといけない。
それが光輝兄に出来ることなんだ・・・。


「だけど・・・あえて言わせてもらうけど、俺はもう少し我侭になってもいいと思うんだ・・・いや、我侭になってほしいといったほうがいいのかもしれないな。俺は、お前の我侭だったら、許せるんだよ。
付き合うって、そういうことじゃないのか?兄弟って、そういうものじゃないのか?」



聞かれたけれど、俺には答えることが出来なかった。この恋は手探りだから、何が正しくて、何が間違っているのか・・・俺には自身を持って言うことが出来ない。

兄弟で男同士・・・それ自体が間違えているのかもしれない。

でも、そう思ってしまえば光輝兄の気持ちを否定することにもなってしまう。

それなら俺はどうしたらいいの?どうしたら光輝兄の好きな『弟』でいられるの?




「線を引かれるのって、お前が思ってるより辛いんだよ。付き合うといっても、男同士で、兄弟同士・・・何かが変わったわけではない筈なんだけど、時々お前が遠く感じることがあるんだ」


切なそうに言われ、俺は戸惑った。そのような光輝兄の気持ちは、初めて知った。
いつも暖かく俺を包み込んでくれる。時々思いもかけないいたずらをして、俺を困らせる。
そんな『余裕たっぷり』な光輝兄が大好きで。どきどきはするけれど、安心して身も心も任せられる存在で。
自分ばかりが追いかけていると思っていた。そこまで苦しんでいることは言ってくれなかった。
でも・・・光輝兄が言った通り、俺が線引きをしていたのなら、ひょっとしたら、言えなかったのかも知れない。


「だけど、急に言われたって困るよな。言われて簡単に治せるなら、お前だってそんなに思い詰めなかったんだろうと思う。そんな瞬も瞬なんだから、俺は愛しいと思ってる。
ただ・・・これだけは言っておきたいんだ。俺から、逃げないでほしい。どんなお前も受け止めるから、正面を向いてほしいんだ」





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