Eleventh



「あ、瞬に光輝さん、来てたんだ。こんばんは」



後ろからかけられた声に振り向き、俺は凍りついた。
そこには修一郎と・・・何故か鷹司さんがいた。
光輝兄の知り合いである彼女はかなりミステリアス・・・いや、得体の知れない女性で、かつて危ない策で俺と光輝兄の仲をかき混ぜた張本人でもある。
最初は光輝兄のことが好きだと思ったんだけど、どうやら俺をおもちゃにしたくて接近していたらしい。何を起こされるかわからないから、鷹司さんを見たら、一目散で逃げろと、きつく言われている。



「やぁ、修一郎くん。鷹司の奴は気に入ってくれたかい?」

どうやら光輝兄と修一郎は彼女のことについて話していたらしい。実はほんの少し疑っていたんだけど、変なことはしてなくて本当に安心した。まぁ、別に隠すことではないと思うんだけど・・・。



「光輝さん・・・かっこいい。俺、マジで惚れそう」



「修一郎!」



またもや誘惑を試みている修一郎。修一郎は女の子専門だったはずでは?

「おいおい・・・君に好かれても俺はうれしくないんだが・・・」

「俺だって・・・悔しいけど・・・まさか男を好きになるなんて・・・」

ちょっとうつむいたように答える修一郎。切なさをアピールしている。

「この前女の子専門だと言っていたはずだが・・・」

「うん。でも、光輝さんになら抱かれてもいい・・・これはほんとだから」

きゅっと抱きつこうとしたみたいだが、それは止められた。

「俺はお前なんか抱きたくない」

「うわぁ、はっきり言っちゃうね。俺・・・傷ついた・・・」

あからさまな落ち込みを見せる修一郎だったが、光輝兄は気にしていなかった。

「恋人を紹介したのはどこの誰だったかな?」

「はい、光輝さまです。その節は大変お世話になりました。だからそのお礼に、いつでも俺を抱いて・・・」





後半から台本を読んでいるように聞こえる。よく聞いてみると大根だ。
俺を煽るための演技なのだろう。が、それでも俺は嫉妬を隠すことが出来なかった。
一応修一郎はモテる分類に入る。そんな男が光輝兄に絡んでるんだ。
そんな修一郎が何故か可愛く見えて・・・いや、うらやましいのだ。
どんな下心があったとしても、当たり前のように甘えることのできる彼が。
しかも、光輝兄も対応が慣れていて、それが俺の嫉妬を煽る事になる。



「妬くな。お前もかっこいいぞ?二人に抱かれるのもいいかも・・・」

どんなに尽くしても(?)つれない光輝兄を誘惑するのに飽きたのか、今度はターゲットを俺にしてきた・・・・・。

「俺、男好きというわけじゃないんだけど」

そんな一言は、あっけなく無視された。

「瞬、いいか?もしこれから光輝さんと付き合い続けるのなら、お前は一生
童貞だ」

ぬっ・・・。俺が気にしていることを言いやがって。
でも、仕方ないじゃないか。俺は光輝兄に『されたい』と思っているんだから。

「光輝さんがいるから、それでもいいと思っている。勿論、光輝さんは瞬に抱かれるつもりはないんだろ?」

「当然だ」

「・・・少しは否定したほうがいいんじゃないかしら・・・」

呆れ顔で鷹司さん。

「鷹司さん、人間には向き不向きがあるから・・・光輝さんが受に見えますか?」

「見えないわね。残念だけど、この私だって押し倒してどうのこうのなんて思えないわ」

「でしょう。彼にするより、してもらったほうが気持ちよさそうだもの。だから、俺の出番というわけだ。初めての男は俺で・・・」

何故か彼はシャツのボタンをはずし、俺は無理やり手を彼の扁平な胸の上に・・・修一郎は一応、腐っても親友だから、殺すのは止めておいた。赤の他人だったら殺していたところだ。





(ドキドキ・・・してる・・・)



彼は目をつぶって、俺の手を左胸に持っていった。
修一郎の体温が伝わってくる。
でも、不思議と嫌悪も熱さも感じなくて、
スキンシップが大好きな親友ってこんな感じなのかなと漠然と思った。(人、それを眼中にないという)


ここでいいことを思いついた。

「修一郎って・・・バイだったの?」

俺はちらりと光輝兄に視線を移し、わざと光輝兄と似たような事を聞いた。
その意図を察したのか、修一郎が軽くウインクを返して応じる。

「言ったろう?俺は女の子一筋だって。でも、たまには『浮気』をしたくなるものなんだよな」

「俺・・・男なのに・・・」

演技でなく、本当に気にしている部分だった。
修一郎は俺が兄に抱く恋心に気づいた人間だ。
それなのにこうやって親友でいてくれる。
苦しいとき、何度泣きついたことか。


「あー・・・抱くのは男女ともに可能だけど、抱かれるのって男が相手じゃないと出来ないじゃん。
俺、最初はもし瞬が相手だったら、抱きたいのかもと思ってたんだ。
だけど・・・光輝さんを見てから、俺って結構受身なんだって気づいてさ。
それとも、瞬、俺が入れたほうがいい?」



こういうときにノリのいい親友の存在はうれしい。何か修一郎らしい、そう思った。
修一郎は俺と違ってかなりのプラス思考の持ち主で、いろんな『くだらない』事に楽しみを見出せるような人間だ。
俺が記憶喪失になったときも、恋人と偽ろうとしたことがあった。
まぁ、それは俺が即否定したせいで未遂となったのだけれども。

修一郎みたいな性格だったらもっと肩の力を抜けたのだろうか。

「どっちでも。修一郎、言っとくけど、あとから嫌だといっても逃がさないから」

「何を今更。俺がそんな面白そうな話題から逃げるとでも・・・まてよ?
逃げたほうが面白いのか。それに、触り放題だぞ。何なら今すぐ誓いのキスを・・・冗談デス、ハイ」



途端、二つの巨大な殺気に襲われ、修一郎が沈黙する。



「鷹司、修一郎くんをよろしくお願いするよ?」



「長ったらしい話の結論がそれ・・・修一郎くんって可愛いわね?」



鷹司女史の瞳が恐い。彼女が見せているのは嫉妬でなく、殺意。

除け者にされて、腹が立っているのだ。

しかし、結構恐いものはないとされている修一郎ですらも震えているのに、光輝兄は平然としている。
実は結構大物かも・・・とおもったのは、秘密の話である。


「だろう?君に似合うと思ったんだけど、紹介して正解だったよ。修一郎くん・・・本当に君は可愛いな」



慈しむような口調とは裏腹に、頭蓋が陥没するんじゃないかという強さで修一郎の頭を鷲掴みにしている。

「いだだだだだ・・・ゆ、許して・・・お、『おにいさま』・・・」

わざと強調した。ひょっとして修一郎が兄に接近した理由は、遊ぶ相手が欲しかったから?
ともあれ、今の一言で光輝兄の手に力が入る・・・。

「俺の弟は瞬一人なんだけどな?」



「瞬、この人、どうにかして・・・う・・・
うぎゃーーーーーー



もちろん、俺に手を出そうとした修一郎のことを怒ってくれていることに幸せを感じている俺が、兄に逆らうはずがない。それに、今歯向かうほど、俺はばかではない。

「瞬くん?本当に修一郎くんってストレートなの?」

「はい・・・と言い切る自信をなくしました。多分俺なんかよりはるかに素質が・・・。それより光輝兄って・・・」

「ああ見えて結構攻体質みたいね。優しさは瞬くん限定みたい。同罪の癖に、扱いが違うもの」


「俺はストレートだぁぁぁぁーーーー」


本気で命の危機に瀕した男の、心からの叫びだった。
自分が楽しむために周りをかき回すためには自ら生贄になることも厭わない男に、俺は珍しく心の底から合掌した・・・。





「と、いうわけで、俺と鷹司さんはお付き合いしてるんだな、これが」



にっこりと微笑む鷹司さんに脅され、やっと報告をした。
何故彼女を紹介したのか?と光輝兄に聞いたところ、『鷹司がウザいから』だった。
恋人がほしい修一郎と、邪魔者を消し去りたい光輝兄、(そしておもちゃが欲しい鷹司女史)、
どうやら様々な利害が一致したらしい。
でも、よく考えてみると、お似合いのカップルかもしれない。
修一郎は年上が好きだし(しかも、実は受身体質であるようだ)、鷹司さんは年下の子がタイプのようだ(しかも、彼女は相当なSだ)。



「じゃ、私たちはこれで失礼するわね」

「瞬に光輝さん、抱きたくなったらいつでも呼んでくれよな。俺、どっちも好きだから」

「そんなこと言ってると、泣かすわよ?」

「泣かされるならそっちの二人のほうが・・・じょ・・・冗談です。

大して気にしていなかったのか、あっけなく鷹司さん(+修一郎)は去っていった。
俺たちをからかうのかと思ったけど、そうではなかった。
自分が幸せ(専用のおもちゃを手に入れたから)だと、他人のことなどどうでもよくなるらしい。俺は苦笑するしかなかった・・・。



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