Twelfth
花火大会の会場中心に行くには人が多かったので、ちょっと離れたところから見ることにした。川原に下りてもよかったんだけど、それはそれで落ち着けないような気がした。祭りのにぎやかな空気を楽しむのならそれでもいいけれど、先ほどまでとんでもなく騒がしい空気が流れていたため、俺も光輝兄も、その空気よりも、静かな時間を過ごしたかった・・・。
「修一郎くんに・・・変なこと、されてないよな?」
本当に心配そうに聞いてきた。
今回は俺に協力してくれただけで、実際に男といたした話は聞いたことないから、
多分アレは彼なりのコミュニケーションなんだとは思うけど・・・光輝兄はそんな事情を知らないらしい。
と、いうことは・・・?まさか・・・
「ひょっとして、ヤキモチ?」
「いや、兄としてだな、可愛い弟に変なことをされたら・・・と思うとだな」
妙に兄弟愛を強調しているような気はするけど、やっぱり図星らしい。口が緩みそうになるのをこらえた。
「修一郎の胸・・・触っちゃった・・・」
「な・・・」
「何か突起があって・・・」
「お、おい・・・」
「触り心地はそんなに悪くなくて・・・」
「ま、まさか・・・」
「おまけに抱いていいって・・・」
「まさか修一郎くんのこと・・・」
「大事な親友だから。でも、触っちゃったことは事実なわけで・・・消毒してくれるんだろ?」
当然だ、と彼は即答した・・・。
「・・・綺麗」
夜空に次々と燃え盛る花が開き、はーっと俺はため息をつく。
いろいろと何を言おうか考えていたんだけど、それ以外に言葉が見つからなかった。
「あぁ、そうだな」
そんな俺の言葉に頷く。今年の花火はいつもに増して綺麗なような気がするのは、気のせいだろうか・・・。
いや、気のせいなんかじゃない。隣に光輝兄がいてくれるから・・・だから花火も特別なのだ。
花火大会というのは、基本的に独りで行くようなものじゃないと思う。
独りで行っても、虚しいだけだと思う。恋人、友達など、親しい人と行くから楽しい。
特に今日は大好きな人と一緒だから・・・。
光輝兄は基本的にこういうイベントには行かない。
人が多いのを嫌うような人間じゃないけれど、帰るときの混雑の恐ろしさを嫌というほど味わっているらしく、仮に行ったとしても、ちょっと上がっているのを見てからすぐ帰ってしまうような人だ。
おまけに、浴衣を着るなんてことは、まず無い。
「人・・・本当に多い」
「あぁ、そうだな」
またもや頷きで返す。何か心ここにあらず、という感じだ。この分だと・・・
「夕飯、どうする?」
「あぁ、そうだな」
俺が何か聞いていることは解っているけれど、その内容は右から左に抜けているらしい。機械的に返す。
人の話を聞かない彼にむっとし、ちょっと悪戯しようかと思う。彼の耳に口を近づけ・・・
「光輝兄!」
と叫んでみる。思ったとおり、彼はびっくりし、飛び上がる。
「なんだなんだ、どうした?」
きょろきょろしながら尋ねてくる。自分が原因にあることは全くわかっていないらしい。
「人の話を聞かないで、ナニ考えてるんだよ」
「あぁ、悪い。ぼーっとしてた」
すんなりと認める。しかし、反省している風には見えなかった。ちょっと睨むと、慌てた様子を見せる。
「いや・・・その・・・」
「ひょっとして、女の子のことでも・・・」
冗談で放ったそれに、傷つく自分がいる。結局どんなに努力しても、女の子には勝てない。
もし自分が女だったら、好きだと言って、付き合ってもらえたかもしれない。
付き合ってもらえなくても、友達としてなら見てくれるかもしれない。
だけど、男同士だから・・・それは叶わない。
光輝兄が俺を突き放さないのは、俺が弟だからだ。
男を好きになった俺が哀れで、お情けで付き合ってくれているんだ・・・。
「女の子か・・・最近付き合ってないな」
しみじみと呟く。光輝兄は無節操ではないけれど、それなりに付き合っていたことを知っている。
女好きを自認しているけれど、そんなにエロいわけではなく、さわやかさと誠実な人柄が人気があり、かなりモテる。彼が女と一緒に歩いているのを見て、何度俺は焼け死にそうになったことだろう。
「好きになれないんだよ・・・」
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