Fourteenth



ひたすら謝って、なだめて、何とか機嫌が戻った。
会場には想像以上に人が集まっていたので、半分程度見ただけで帰ることにした。
前から花火を楽しみにしていた瞬は反対するかと思ったけど、すんなり了承してくれた。
俺たちは人通りの少ないところをのんびりと歩いている。


「最後の・・・楽しみにしてたのに・・・よかったのか?」

この花火大会は毎年最後になると大玉が連続で打ち上がる。
さっきまでのとは迫力が桁違いで、それを見たくてわざわざ来る人も多いくらいだ。


更に、他の有名な花火大会に比べ、遅い時期に行われるから、この辺の人にとっては、この花火は夏の締めくくりという意味合いもある。
見に行かなくても、遠くから音を聞いて、『夏も終わるんだな』とみんなしみじみと思う。
そういえば瞬はこの時期部活やバイトばっかりしていて、落ち着いてこの花火を見るのはかなり久しぶりになるだろう。だからいいのかと思ったけれど、瞬はあっさりと返す。




「ん。人が多いと光輝兄といちゃつけないから・・・」



とはいえ、彼にとっては相当自爆だったらしい。あっという間に真っ赤になっていく。



「ってわけじゃ、なくて、人が多いと帰るときにアレだから・・・うん」



しどろもどろになって言い訳をする。



「決して光輝兄と人気のないところでしようと思ったわけじゃ・・・」



ないんだろうな。



しかし、言い訳をすればするほど、深みにはまって行き、身動きが取れなくなっていく。
瞬がそれを知れば怒り狂うだろうけど・・・それが妙に面白くて、つい後ろから抱きしめてしまった。
どうやら俺はいじめっ子体質でもあるらしい。


「うー。そんなことされると困る」

「嫌なのか?」

本気で困っているようなので、俺はしてはいけないことをしたのかと思った・・・が。

「嬉しすぎて・・・困る・・・」



恥ずかしさのあまり、俯いてしまった。うなじが真っ赤である。だが、俺も似たようなもので、顔の表面が沸騰しそうだった・・・。



さすがに往来でスキンシップしすぎた、自分達の世界に入りすぎるべきではない。歯止めが利かなくなる。慌てて離そうとすると、強引に向きを変えて、俺の背中に手を回してきた。
想像以上に強い力で、俺は一瞬戸惑う。知らないうちにこうやって成長していくんだ・・・と妙なため息をついた。






「しばらく・・・そのまま・・・」





と、いきたかったんだけど。俺だってこの空気をぶち壊したくは無かった。
瞬のさらさらな髪、しっとりとした肌触りが心地よく、出来ることならしばらくこの甘い空気に浸っていたかった。
なぜか、自分のほうが離れたくなかったんではないか?という考えが頭に浮かび、慌てて振り払おうとして、やめた。多分その通りなのだろう。


だけど、人目の多いところで抱き合っているのは、さすがに『仲のいい兄弟』の域を超えてしまい、好奇の対象になりすぎる。今俺たちを見ていないのが不思議なくらいだ。
周りが気にならないほど熱くなるという・・・お祭りの空気に感謝しないといけない。



それ以前に、俺が気にしすぎなのか?




そういうわけで場所を移すことにしたけれど、ほんの一瞬でも離れたくなかったのか、渋る。
何度もお願いして、やっと首を縦に振ってくれた。俺の立場も解ってほしい・・・と思うのは変だろうか。






瞬は俺に抱いている気持ちを後ろめたく思っているせいか、
普段は俺に対して遠慮がちなんだけど、
何故か妙なところでわがままになる。
こんなところでわがままにならなくてもいいとは思うのだが、
そんな我侭も愛しいと思う俺は・・・
頭がいかれているのかもしれない・・・(そんなこと言ったら瞬に殺されそうだけど、前の俺から比べれば、その言葉が妥当なのである)。
もっとわがまま言って甘えてほしいとも思う。瞬にはのびのびと生きてほしい。



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