Fifteen





「光輝兄・・・ぎゅっとして・・・」





背筋が震えるほど甘い声でおねだりをする。
瞬と色気は無関係だと思っていたけれど、そんな顔も出来ることを知った。
それは、世界中のどんな女の誘惑よりも、俺の心を動かすことが出来る・・・いや、違うな。
残念ながら俺を動かせるのは、瞬しかいなくなった・・・と言うべきだろうな。
どうやら俺に逃げ道は残されていないらしい。目の前のカッコ可愛い少年を心の底から恨んだ。

そして、そんな彼に今まで平静でいられた俺を不思議に思う。
どうして今になって俺はこんなに心臓がばくばくしているんだろう。
見慣れているはずなのに、弟であるはずなのに、そして男であるはずなのに・・・。
なぜ、今の今まで彼の魅力に気づかなかったのだろう?やはり近すぎたからなのだろうか?


目の前の男の魅力に麻痺してしまったせいか、相手が男であるということについて、考えることが出来ない。もし今抱いてと言われれば、俺は・・・。男同士の壁を越えることも抵抗ないだろう。





「手、貸して・・・」





後ろから抱きすくめた俺に命令する。
言われるままに手を瞬に預けると、彼はぎゅっと俺の手を握った。
その手が小刻みに震えている事に気づき、何となく俺は解った。
瞬の魅力は「媚びない」可愛さにあるのだろう。


自分の魅力に気づいている人間は、それを武器にする。どうすれば人が動くかを知っていて、もっとも効果的な仕草を行う。
そうでなくても、そういう同性を好きになるような人間には、『オカマ』とは違った、媚を売るような話し方をする人もいるらしい。最近テレビでもそういうのを売りにしたタレントが数多く現れているが、俺は結構それを冷めた目で見ていた。




しかし、瞬は決してそれをしない。誰よりも純粋で、綺麗な心を持っている。ただ俺に見てほしいだけで必死なのだ。必死すぎて・・・嬉しい反面、見ていて痛々しくもある。
今だって、瞬の人生の中でも(恐らく)一番甘えているくせに、物凄く違和感がなく、まとわりついたような感じは全くしない。
だから俺もずっと感じた壁を取り払うことが出来る・・・のかもしれない。





そもそも・・・さすがに瞬にそれを言うことは出来ないし、そんな勇気もないけれど・・・俺は「恋愛」という感情に拘りすぎたのかもしれない。



男同士ということでそういうことばかり考えていた。
相手が男だからということで特別に考えすぎていた。
どうしたら瞬と『全く同じ』気持ちを持てるのか、そればっかりで、瞬の気持ちに応えてやれない俺を、ずっと悪いものだと思っていた。


しかし、考えてみたら愛し方は人それぞれだ。人を愛するのに恋愛しか方法がないわけではないのだ。
瞬に恋をするだけなら、どんな人にだって出来る。しかし、俺には俺にしかできない愛し方があるだろう。
たとえ彼に恋できなくても、瞬が世界で一番大切な存在であることは変わらない。そして、俺には『鷺沼瞬』という存在が必要なのだ。
今だから言えるけれど、俺の気持ちは恋に劣るとは思わない。男女関わらず、瞬のことを一番愛しているのは俺だろう。そう思うと・・・ほんの少し肩の荷が取れたような気がしてきた。そう思えるなんて・・・本当に俺も変わったと思う。
でも、それは瞬のおかげなのかもしれない。瞬がまっすぐに俺のことだけを見てくれたから、それが何十分の一であっても、返そうと思えるのかもしれない。




外は暗いはずなのに、その上、俺の視界はかなり限られているはずなのに、瞬の顔・身体の輪郭全て見ることが出来る。今彼がどんな顔をして、何をしてほしいのかも解る。そして・・・俺が何をしたいのかも・・・。





俺は少しはだけた瞬の胸元に手を差し込んだ・・・。



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