Sixteenth



(気持ち・・・いい)



誘ったのは俺のほうだけど、ここから先は全て兄に委ね、俺は目をつぶった。

彼が俺に触れている・・・それだけで幸せを感じる。今までの卑屈だった、よどんだ気持ちが、それだけで流されていき、言葉に表しきれない幸せに流されていくのを感じる。
兄の言葉で傷つくいっぽうで、彼がいることで幸せになれる。本当に・・・俺も現金な男だ。




彼の綺麗な手が俺の肌をゆっくりと、穏やかになでるたびに、俺はぽーっとしてしまう。
光輝兄の色に染め上げられていくような気さえする。
ここも触って欲しいし、あっちも触って欲しい。
もっと『消毒』して欲しいけど、光輝兄という『毒』だったら、進んで俺はそれにおかされる。彼がくれるものなら、俺は残さず受け止めたい。
全身で彼を感じたい。
今の空気を一言で表すと、『癒し』なのかもしれない。
いわゆる「快感」とか、「刺激」とか、性的なものは全くなかった。
だけど、俺には必要ではなかった。









ただ愛しく、ただ幸せだった・・・。








そして、好きな人に触ってもらうというのが「恋愛」にこだわる必要がないことを、生まれてはじめて知った。
それが恋でなくても幸せになれることをはじめて知った。
それを教えてくれたのは光輝兄・・・あなただよ。



あなたが恋という鎖に縛られた俺を救ってくれたんだ・・・。





俺はずっと恋が絶対的なものだと思っていた。『恋』でないものは劣っていると・・・。
でも・・・それは人によって違うんだよ。
恋が自分の中で一番強い人もいるし、そうでない人だっている。
悩んで苦しんで結論を出してくれた光輝兄の気持ちを尊重しつつも、心の片隅では俺と同じ気持ちになることを願っていた。だけど、どうして俺は光輝兄に恋してほしいと思い続けていたんだろう。
そんなの、本当に・・・些細なことじゃないか。
もっと大切なものは、別にあるじゃないか。
俺と光輝兄の間には、恋だけで縛ることの出来ない何かが存在する。
俺が恋していればいいだけで、光輝兄に『同じこと』を望むほうが間違っている。






確かに光輝兄は俺のこと、そういう気持ちでは見ていないし、見ることが出来ないだろう。光輝兄にとって俺は『大切な弟』なのだ。
昔から重度のブラコンだった俺だって光輝兄だから好きになった・・・と思えるようになるまで、すごく時間がかかった。特に光輝兄については、今までの人生観が180度変わるのだ。俺を見て心臓をドキドキさせることなんてないだろう。それが解っていたから、正直寂しいと思う部分はあった。期待半分、諦め半分という感じだった。




でも、左目を犠牲にしてまでも俺を護ってくれたじゃないか。
本当は切り捨てるべき想いなのに、俺を見捨てないでくれた。
普通だったら答えは決まっているはずなのに、馬鹿みたいに悩んで・・・。
今だって・・・俺は男なのに・・・光輝兄はこうやって俺を愛してくれているじゃないか。
光輝兄は、言葉に出さないけれど、いつでも俺を愛してくれていたんだ。
それを知ると俺が『同情』だと思ってしまうから、わざわざ口に出さないで、損な役回りばっかりして・・・。俺の暴言を何も言わずに受け止めてくれて・・・。
光輝兄はずっと俺のことを見ていてくれたんだ。何も見ていなかったのは・・・俺のほうだった・・・。


世界一大好きな人の手は優しく、俺のことをまっすぐに、大切に想ってくれていることが伝わってくる。
それはどんな恋よりも強い・・・俺は信じたい。






「光輝・・・兄」





「どう・・・した?」

視点の定まらない瞳で聞いてきた。ついでに、俺も意識が飛びかけているので、彼の顔がはっきりと見えなかった。だからいつも彼に遠慮して・・・普段言えなかったこと・・・今なら言ってもいいよな。





「好き・・・」





「あぁ」





「大好き・・・」





「そう・・・か」

別にその答えは返ってこなかった。でも、それを言葉で表してもらう必要は無かった。



ぎゅっと抱く力が強くなったから。



どんな言葉よりも、光輝兄の手が、腕が教えてくれる。
言葉に表さないのが彼の気持ちなのだ。
俺がそういう気持ちで思うことを許してくれているから・・・。
だから俺は幸せで満たされていた。それでついつい口走ってしまった。これは俺の本心じゃない!つまりは、その場の勢いというやつだ・・・と後から思う事になる。






「だから光輝兄・・・あなたが・・・欲しい・・・」



NEXT



TOP   INDEX