Eighteenth



人の欲望には限りがない。限りない欲望を持つから、人間なのかもしれない。
一つ願いがかなうと、更に次の階段を上がってしまう。
ただこっそりと好きでいればよかったのが、いつの間にか存在そのものを手に入れようと望んでしまう。
それが分不相応な望みだということは知っている。
今自分にある幸せをじっくりと噛み締めるべきだということも、解っている。
だけど、知っていても、今の幸せの波に流されている俺では止めることが出来ない。




ん?俺の腰のほうで何か妙な動きがある。
よくよく見ると、するりするりと帯が解けていくわけでなく、ほんの少しゆるくなっていく。
それに気づくと同時に彼の吐息が首筋や耳にかかり、そのたびにぞくっとする。
それに気づいているのかいないのか、片手で優しく、不安を取り払うように、あえて『兄』として俺の肌をまさぐり、そして下着にもう一方の手をかけ、器用に下ろし、俺は時々震えながらそれを待って・・・って



オイ!




「光輝兄・・・何してるの・・・?」

「欲しいと言ったのは・・・お前だろ・・・?」

ここで多少エロいモードで言ってくれれば返しようもあったのに、真顔で聞かれ、返答に窮した。
いや、確かに言った・・・気はする・・・んだけど。
でも、俺は『光輝兄』全てがほしいという意味合いで言った・・・と思う・・・わけで、
18歳未満お断りという意味で言ったわけじゃない・・・はずだ。
今まではただ触ってもらっただけで不思議な事に性的な要素は全くなかったけれど、これでは確実に一線を越えてしまう事になる。
俺のほうが誘った事になるけれど、まだ、俺にそれを越える勇気はなかった。
自分勝手だとは解っているけど、もう少し時間が欲しい。
現実を認識して尻込みするなんて俺も情けないと思うけれど、これから先に不安がないわけではない。

確かに抱いて欲しいと思うし、流されちゃってもいい・・・けれど、さすがに今は嫌だ。
やるのなら、室内でじっくり、腰が立たなくなるまで愛してほしい。

それ以前に・・・光輝兄は男を抱けるの?女の子を抱くのとは話が違うんだよ。
柔らかい胸はないし、女には存在しようのないものがついている。
抱いた後に『やっぱり男は嫌だ』と言われたら、俺は立ち直れない・・・。




そんな不安を胸に彼を見ると、何故か浴衣がはだけて上半身が見えている・・・。
初めて見たわけではないけれど、無駄なく筋肉がついていて、綺麗だ。
こんな人に抱かれるなんて・・・俺は幸せ・・・って、光輝兄、ひょっとして相当やる気?


「光輝兄・・・俺、男」

「そんなこと、解ってる」

即答。目が据わっている。

「ついてる」

恥ずかしいけれど、俺のアレを触らせた。

「だからどうした」

あっさりと却下。

「でも、俺、心の準備が・・・」

慌てて言うと、ぎろりと睨んできた。

「今からしろ」

もう彼を止めることは出来ないのか?


「そんな簡単に出来ないって」

懇願すると、苦笑しながら解放してくれた。

「実は俺も心の準備が出来てなかった」





つまりは、勢いで俺を抱こうとしたらしい。それでいいのか?
自分のことは棚の上どころか、銀河の外まで放りだして半眼で睨むと、降参のポーズを取った。




「悪かったな。今の勢いなら、男同士の壁を壊せると思ったんだよ・・・」



「俺が女だったらな・・・」



それはそれで違う問題が出てくるから、今のはただのため息と同じで、たいした意味はない。
男であることを卑屈に思うつもりはない。むしろ、男であってよかったな・・・本気で今はそう思える。






その場の空気に流されたのかと思っていたけれど、決してそうじゃなかった。
しっかりと考えてくれていた。そんな彼の『努力』を、嬉しく思う。
かなりの常識人の彼だから、冷静になったらこれを一夏の過ちとして片付けるかもしれないけど、俺は忘れない。ずっと、忘れない・・・。



NEXT



TOP   INDEX