Nineteenth



瞬が女だったら・・・か。



本人は何も意味を込めないで言ったんだろう。目に自分を卑下する色は浮かんでいない。
しかし、俺はそれを流すことが出来なかった。
本人が『今』そう思っているのかどうかは知らないけれど、「もし自分が女だったら、好きだと言って、付き合ってもらえた」と思ったことはあるはずだ。
そうでないと、今のような言葉は口から出ないだろう。






「もしも」という仮定は、耳に優しい。俺だって時々それを使う。
しかし、仮定に意味が存在するのだろうか。
俺たちは都合のいい部分だけを切り取って利用しているだけなのかもしれない。
ある一部分だけ変えても、現実が自分の望むとおり変わるはずがないのだ。
人は過去があるから現在がある。
ある点での選択が違うものであれば、全く違う未来になる。
つまり、今よりも悪い未来である可能性だってたくさんある。
瞬、俺たちがするべきことはそんな仮定じゃなく、今の幸せを見つめることなんじゃないかな。
だが、そんな簡単に割り切れない部分があることも確かな訳だ。
どうせだから、もしもという仮定をしてみよう。






もし瞬が女であれば、俺を好きになるか?残念ながら、どんなに仮定をしたところでそれは不明だ。
俺は女になったことがないからわからない。女には女の恋の仕方があるし、男には男の仕方がある。


それでも俺を好きになったとする。では、俺は瞬の想いに答えるか?
応えないかもしれない。「兄妹愛」を超えることは無理だろう。
瞬が男であるから、それだけ近い存在だったから、彼の想いを受け入れられたことは否定できない。
男同士にも、恋で量れない部分が確かにあるんだ。


それに、男と女は平等ではあっても、同一ではない。男には男の、女には女の魅力がある。
だから、自分が女だったらという仮定は無用なのだ。
・・・というと、何か瞬が男であるから・・・という結論になってしまうけれど。
俺としては不本意な部分はあるけれど、それらの要素は無視したくない。
いろいろな『欠片』が集まって『瞬』が出来ているのだ。
瞬という人間の中では男という要素は小さいかもしれない。いや、ひょっとしたらかなり大きいのかもしれない。
だが、どちらにしろ瞬というパズルを構成するのに必要であることには変わらない。






「もし・・・お前が女だったら・・・」





「女だったら・・・」

「さぞかし美人になるだろうな・・・」

がくっ。こんな効果音が聞こえてくるような気がした。

「美少女に『お兄ちゃん大好き!』と呼んでもらうのも悪くはないが・・・」

残念ながら、これも嘘ではない。瞬には悪いが、理論と感情は別物なのだ。

「裸エプロン・・・というのも夢見ていたんだが・・・」

さーっと瞬の血の気が引いていくのを感じる。全身からマンガもビックリなほどの冷や汗が流れている。
しかし、俺の人生観を変えてしまったんだ。このくらいの意地悪は許されて当然だろう。




「そんなの俺がいくらでもしてやるって!」



「ほんとか・・・?瞬がそんなこと出来る子に見えないんだけどな・・・」

「こ、光輝兄が望むなら・・・」

「あなた?ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も」

「光輝兄・・・そんな趣味が・・・?」

「やらないのか?」

「う・・・やらせていただきます」



いじめるのはこんくらいにしておくのが妥当だろう。これで自分のコンプレックスが減ってくれると嬉しいのだが。
ちなみに瞬のエプロン姿を想像してみた・・・裸エプロンはよしておこう。俺は天寿を全うすることを決めた・・・。



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