Second
俺自身は浴衣は普段着ないけれど、今回ばかりはどうしても着たかった。今週末花火大会があるのだ。
いつもはそういう、人が多いようなイベントには行かない―大抵はバイト先の都合によって、泣く泣く働かされている―けれど、珍しく光輝兄が誘ってきた。
『来週の土曜、空いてるか?』
『来週?どうして?』
別に予定があるわけではない。
夏休み初めに俺は交通事故に遭った。それは光輝兄と『デート』しているときのことだった。
怪我自体は左目の光を失った光輝兄よりもはるかに軽いんだけど、光輝兄が好きだという消したい気持ち(当時)と事故の衝撃という偶然が見事に重なり、俺はいとも簡単に記憶喪失になった。
記憶のほうは無事・・・とはいかなかったけれど、良くも悪くも戻り、元の生活に戻ったように見えるけれど、まだ検査のために定期的に通院している。
そのこともあり、バイトのほうも九月半ばまで休ませてもらっている。首になるかと思ったけれど、店長は優しい人で、俺の身体を気遣ってくれ、おまけに『来たくなったらいつでも言ってくれればいい』と言ってくれた。本当に・・・感謝だ。
とは言え、その前が大変だった。俺としては退院後すぐにでも働きたかったけど、光輝兄が大反対した。
バイトを辞めろと言ってきたのだ。俺を養うくらい簡単だから、身体を直すことに専念しろというのが、彼の言い分だ。勿論、彼のそんな優しさは嬉しいと思う。
でも、それじゃいけないんだ。もしそれを受け入れれば、俺はどんどん彼に甘えてしまうだろう。
俺はただでさえ彼にとって重荷であるのに、これ以上迷惑をかけて負担にはなりたくなかった。
そう伝えると、自分の申し出が却下されたことが不満だったのか、『お前は妙なところでわがままなんだから・・・』と愚痴を言いつつも、最終的には俺がバイトを辞めないことを許してくれた。
ただ、『ある程度落ち着くまで休むこと』という条件を持ち出してきた。勿論、俺に反対する理由などない。即その条件を呑んで、今に至る。そんな暇な生活の中、夏休みの課題も一気に済ませ、文字通り来週の土曜は暇なのである。
『花火大会があるだろ?』
『え?光輝兄、行く人いるんじゃないの?』
大学の友達が結構家に来るのを見る。夏休みだから、結構遊んでいてもおかしくはないのに、最近は家にいることが多い。だから、リフレッシュに彼らと行くのかと思った。
『・・・俺と行くのは嫌なのか?』
困ったような顔をされ、俺は急いで首を振る。
『そうじゃなくて、本当に俺でいいのかと』
『馬鹿。お前でなくてもいいのなら誘うもんか』
ひねくれた答え。でも・・・言いたいことは充分伝わってきた。
『・・・行く』
というわけで、今回は非常に気合が入っているのである。
光輝兄の隣に立って不自然にならないようにするには、それなりにいい格好をしなければいけないのだ・・・。
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