Fourth〜痛スギル、ソノ想イ〜



矛盾しているとはわかっているけれど、こればっかりは『瞬のせいではない』と言いたい。左目を失うのは、自分が選んだことだから・・・。瞬の記憶喪失の本当の原因は、ここにあるのだ。
きっかけは俺に対する『封じ込めなければいけない』気持ちだけど、直接のスイッチは俺の左目が見えないのを悟ったことによって入った。彼は俺の血に染まった左目に気づいてしまったのだ。


幸い、俺にはトラウマはないけれど、事故のことは忘れることが出来ない。
瞬がゆっくりと目をつぶっていく瞬間、痛いはずなのに、苦しいはずなのに、何故か彼は安らかそうな表情だった。これから起こるであろう事実がどんなことであれ、受け入れる覚悟があるような気がした。






まさか彼が望むのは消滅・・・?





わずかだった疑念は、次第に確信へと成長していった。どうして俺は今まで気づくことができなかったのだろう。瞬が俺に抱く好意・・・その深さを・・・。





瞬が俺に恋しているという事実、それは決して自意識過剰ではない。
本人から痛いほどそれが本気だということを知らされている。

最初は『恋に恋している』程度かと思った。

時間がたてば、そんな気持ちもおさまるだろうとしか思っていなかった。こう言っては瞬に失礼なのかもしれないが、男であり、実の弟である人からそんなことを言われても、普通は信じないだろう。
しかし、そうでなかった。紛れもなくそれは本気だった。もし本気でないのなら、そんな自分の立場を悪くするようなことを、泣きそうな声で言わないはずだ。
正直言って男、しかも実の弟に性欲の対象にされたことは心地のよいものではなかったけれど、それを『気持ち悪い』と純粋に思えていたら、まだ幸せだったのかもしれない。それ以上に時々見せる切ないまなざし、俺の拒絶におびえた瞳、それが『恐かった』・・・。だから、彼を避けた。その上、彼が俺のモノに触れたとき、思いっきり拒絶してしまった。

それがきっかけで、俺たちの関係は本当に最悪としか言いようがなくなった。






『今まで本当にありがとう。俺、ここ出るよ』





そんな中、彼はこう言った。心から望んでいた言葉のはずだった。
彼の気持ちさえなければ、俺たちは兄弟としていられる。
俺は恋の対象としては不可能だけど、『弟』としてなら大切にしたい・・・どんなに避けても、避けられても、これが変わることはなかった。
だから、お互い距離を置くことが必要だった。
これ以上一緒にいても、お互い傷つけあう事にしかならない。
頭を冷やせば見えることもあるだろう。俺も本当はそれを提案しようとしていた。

それなのに、俺は何故かショックを受けていた。
自分が傷つけておきながら、離れるようなことをしておきながら・・・本当はそんなことをしても、俺から離れないという自惚れがあったのかもしれない。
しかし、そんなこと、言える筈がなかった。俺にそんなことを言う権利なんかなかったから。
気の利いたことをいえなかった俺に、瞬は一鉢の花を渡した・・・。



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