Eighth



「本当に・・・俺のことは気にしなくていいんだ。修一郎くん、やっぱり瞬は・・・」

「俺には・・・本当のことは解らない。でも・・・それで自分を責めているということはないと俺は思う。
それより、瞬のこと・・・どう思ってるんですか・・・?」



彼は的確に痛いところをついてくる。
普通、男に対して男のことをどう思っているかなんて聞かない。
瞬の気持ちを知っているうえで俺から事実を聞き、照らし合わせた結果、こんな質問をしているのだろう。

それとも・・・?

俺は彼に叱られる覚悟で語った。



「ご期待にそえなくて申し訳ないが、一言では表せないな。

多分・・・好きなんだと思う。

でも・・・それが恋かと聞かれても、答えることが出来ないんだよ。
これが俺と君くらいの距離なら、簡単に答えも浮かぶだろう。
だけど、俺たちは兄弟だ。永い時間一緒に過ごしてきて、いろんな感情だってある。
それを一言でいえるほど、俺の頭はよくないんだ・・・。

そんな態度が瞬を傷つけるとは解っているんだけど、男と付き合うのは初めてだから、何が恋で、何が恋じゃないのか・・・まぁ、これは言い訳だな。
君の質問に満足のいく答えを出せない俺を正当化するための」



「じゃぁ、軽い気持ちで付き合っているってわけだ」



わざと挑発的に聞いてきた。俺の気持ちを引きずり出すために。

「さあな。今まで苦しい想いをさせてきたから、
俺は瞬に対しては誠実でありたい、
ただそれだけなんだよ。
もし、修一郎くんが愛することで瞬が幸せになるというのなら・・・」




「俺に・・・譲るということですか?」




一気に殺気が膨れ上がる。今そこにあるのは、恋や愛で濁ることのない、純粋な友情だった。
一個人に殺意を向けてしまうほどの友情をもたれるなんて、瞬も本当に幸せだ。
そして・・・そんな気持ちを持てる修一郎くんの若さが羨ましい、俺は苦笑した。





「瞬には不幸の道を選んでもらうさ」





俺の答えに呆気に取られる。この分だと、『君に委ねるさ』とか、『君には渡さない』という答えを予想していたのだろう。それに何と言い返そうか考えている修一郎くんにほほえましさを感じた。

「えっと・・・普通は・・・幸せを願うものじゃ・・・」

予想外の答えに、彼の口調が一気に勢いを失くす。
確かに、彼がそう思ったのは間違いではない。
俺だって最近、いや、ほんの少し前までそう思っていた、いや、今だって思う。瞬には幸せになってほしい、と。
しかし、修一郎くんの存在が俺のもう一つの本心を暴いてしまった。優しい兄ではない、利己的でしかない、俺の心を・・・。



「他人との幸せなんて、俺には興味ないな。本来男になんか興味のない俺の人生を狂わせたんだ。瞬には自分の言葉の責任をとってもらわなければいけない。俺といて苦しむというのも、悪くないさ。この世から二度といなくなるんじゃないか・・・そう思わされた俺に比べればな」

勿論、最後に付け足しておく。

「それは君が瞬を狙うのなら・・・だ。幸せである事に越したことはないからな」





俺のありのままの想いを、彼は赤面しながら聞いていた。
何故そんな顔をする?そう聞くと、彼は咳払いして答えた。

「ただ知りたかっただけで、別に狙うつもりなんか・・・。
瞬の気持ち、知ってたから、ほんとは一度光輝さんと二人で話したくて。だけど、瞬の前でそんな話できないから、ここまでこぎつけるのに苦労したよ。

瞬は未だに片想いだとか言ってるくせに、妙に色気づいちゃって、ずっと変だと思ってたけど、やっと納得した。
光輝さんも本当に損な人だ。そういう気持ち、見せてやればいいのに。
光輝さんにそこまで思われるなんて、瞬も羨ましいを通り越して、憎たらしくなる。

あーあ、俺にも恋人がほしい・・・」

わざとらしく『恋人がほしい』を強調し、ため息をついた。



「・・・目的はそれか」

「正解です。光輝さんは大学生だから、綺麗なおねーさんに知り合いが多いんではなかろうかと思い、こうしてお願いに参上しましたわけです」

なるほど。修一郎くんはかなりの策士と見た。
同級生だと人脈も共通してしまうことが多いため、こういうのは瞬に頼むより、俺に頼んだほうが効果はあるのは間違いない。更に、急に会ってから聞くのではなく、それなりに俺たちの距離を縮めてから話を持ち出してきた。そして、こっちの話だけが本命だと思わせようとしている。実に面白い少年だ。



「でも・・・君は瞬のことが好きなんだろう?」



NEXT



TOP   INDEX