Ninth



「やだなー。俺、女専門だって」

「誰もそれを聞いているんじゃない」

素直じゃないな。質問の意味を分かっていて、あえてはぐらかしてやがる。

「あ、そっちね。てっきり人をホモにするのかと。
勿論、大好きだよ。確かに彼つっついてるのは楽しいし、今までそれで満足だったんだけど、誰かさんのおかげで最近瞬が相手してくれないの。
捨てられて独り者の寂しさを思い知らされた俺は子離れをしようと・・・ぐすん」



なるほど。



「同級生にいい子はいないのかい?」

「俺、年上好きだから」

即答だった。でも、何故か違和感があった。



「俺、友達とは深い関係でいたいけど、恋人はさっぱりしたほうが好きなの」



あからさまにごまかした。どうやら彼は恋人よりも欲しいものがあるようだ。
瞬を通してではなく、俺に直談判をしたのだから、俺に話さないと意味がないということになる。
まさか・・・



(俺との繋がりを作ることが最終的な目的、か)



隣の芝生は青く見える。その青い芝生と接触するのも悪くないと彼の判断基準はそう告げたのだろうか。
とりあえずの目的は彼女を得ることみたいだから、それ以上の詮索はしない事にした。

「報酬は・・・?」





そんな事情があっても、さすがにただで請合うつもりはない。
取引をするのなら、俺にもメリットがないと意味はない。
したがって、そう聞くと、向こうもそれを予想していたのか、悪徳商人のごとく、袖の下(?)から何かを出した。

「これなんかいかがです?瞬の隠し撮り写真です。この露出した生足がセクシーでしょう?
しかも、『可愛い系』では逆立ちしても不可能な色気が・・・」

「もう一声ほしいな」

「これは居眠りしている写真です。このかっこよさの下に見えるあどけない寝顔がかなりそそるみたいで、何故か抱かれたいという男が続出するという逸品・・・」

「そして?」

「お代官様も人が悪い。秘宝を出しましょう。
これは瞬の着替えの写真。見てください、この肉付き。
すらりとしているから華奢かと思いきや、実はしなやかな肢体。
更にこっちはちょっとへそが見えているという、チラリスト真っ青の品。更に鎖骨好きのあなたには・・・」

「よし、手を打とう」



取引成立すると、彼は大喜びをした。

「今ならおまけに俺の身体も・・・」

「いらん」

即答すると、修一郎くんはちぇっとつまらなそうだった。
君はそのケはないだろう?と突っ込むと、確かにと言った。

「俺は女の子専門だし。でもまぁ、男の世界にちょっとした興味があるのも確かなわけで、だからと言ってこの身体を使って体験するわけにもいかず、でも光輝さんなら抱かれてもいいかと思ってみたり。
同じ後悔をするのなら、かっこいい男に抱かれて後悔するほうがいいもの」

なるほど・・・俺は対象外ということか。





「しゅ〜ぅい〜ちろ〜う?何で光輝兄を誘ってんの?」

気がつけば、こめかみに青筋を浮かばせながら瞬が立っていた。
修一郎くんに撒かれ、いろいろ探した挙句にここにたどり着いたのだろう。いや、この年下の策士のことだから、戻る時間も計算に入れていたに違いない。

「あ、せっかくだから瞬、お前も混ざれ。3Pにも興味が・・・」

いそいそとシャツのボタンをはずす。

「光輝さん、全部脱ぐのと、ちょっとはだけて見せるの、どっちがそそる?」

・・・俺は後者だが、答えるわけにもいかない。



「帰れ!」



お怒りのため沸騰している瞬に対し、修一郎くんはにやにやと笑いを浮かべている。
・・・やられた。恐らく修一郎くんのもう一つの目的は、俺たちの真面目なほうの会話を煙に巻くために瞬をからかうことにあったのだろう。今の彼は恐ろしいほど生き生きしている。俺はその道具にされたのだ。

「なんという罰当たりな。
この世界の何処にただで抱かせてあげる男がいると思ってるのかい?
根っからのネコちゃんならともかく、女の子専門が無条件で後ろを差し出すなんてこと、普通はないのよ?」

「それが世界に一人しかいないとして、それがまかり間違って修一郎だったとしても、俺は光輝兄しかいらないから」

「あらあら、熱い思いを語ってくれちゃって。じゃ、光輝さん、これで失礼します」

軽く投げキッスをしやがった。対象外だと思っていたけれど、お気に入りの対象には入ってしまったらしい。





「光輝兄?修一郎と何の話を?」

「大した話はしてないさ」

「だったらどうして修一郎が誘ったんだよ?しかも脱ごうとしているし」

「・・・全てはお前をからかうためだよ。だからわざわざお前と外に出て、独りっきりにして煽ったんだろう・・・」





どうやら実害がないようなので、彼の気持ちを尊重し、そして、俺のほうも白状するのが恥ずかしいということもあり、俺と修一郎くんのやり取りについては黙っておいた。すんなりと信じるとは思わなかったものの、心当たりが腐るほどあるのか、一気に瞬の力が抜けた。修一郎くんもなかなかのクセモノらしい・・・。



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