いつものようにポストを覗くと、薄桃色の封筒が一通。
一時一時繊細に書かれている宛名を見るが、どうやら相手は家族ではなく俺らしい。
高校生にもなって彼女がいない、友達に手紙を書くような女がいない・・・そんな俺には残念ながら心当たりはなかったが、桜のエンボスが控えめに存在しているのを見る限りでは、手紙を書く前の段階で俺に気を遣ってきたらしい。粋な人から来たことは想像に難くない。
だから余計分からないのだけれども、それならいったい誰が何のために俺に・・・何気なく差出人を見ると、懐かしい友達からだった。なるほど、筆跡も彼のものだ。
一生会うことはないだろうと思っていたので、すっかり頭から抜け落ちていた。

たとえ引越しをして離れ離れになっても、学校を出て別々の生き方をすることになっても、生きていればいつかどこかで会う機会はあるはずだ。本来ならそれが普通だ。
だが、俺たちは二度と会うことはないだろうと思っていた・・・俺はそれだけひどいことをした、そういう自覚がある。
この手紙の主、佐内弥生は俺の親友だった。小学校と中学の二年間同じ学校で、それなりに仲はよかった・・・と思う。
だけど・・・それはもう過去の話だ。俺はあいつに嫌われている。


実は俺は彼のことが好きだった。全体的に色素が薄く、華奢な彼は、男ではあったけれど、俺の好みに的中した。
もちろんその見た目だけで好きになったわけではない。彼の全てが好きだった。
ずっと一緒にいたから、いつの間にか俺にはなくてはならない存在となっていたんだ。
告白?するはずがないさ。ひょっとしたら思春期の過ちかもしれないし、友情がちょっとだけ逸脱しただけかもしれない。
だけど、純粋に恋かもしれないし・・・悩みに悩んだ結果・・・結論なんかでなかった。考えれば考えるほどどんどん深みにはまってしまって・・・仕方なく、俺にしては珍しくゆっくりと進もう、そう思った。
男同士の壁はやっぱり厚いから、時間をかけることにしたんだ。そうすれば俺の取るべき方法も分かると思っていたんだ・・・。




だけど、運命はそんな俺を嘲笑った。あいつは突然言った。



『僕・・・引っ越すんだ』



それは彼が『引っ越す一週間前』、本当に突然だった。俺の家に彼が遊びに来て、いつものようにじゃれあっていて、そんなことを言われるとは思っていなかった。ショックだった。頭が真っ白になった。どうして?どうして俺から離れるんだよ!それに、もっと早く言ってくれれば俺だって・・・覚悟を決めることが出来たのに。突然突き放された悲しみや怒りが大きすぎて・・・俺はキレた。



『ちょ・・・何・・・するの!』



発作的に俺は彼を押し倒す。もちろん、抵抗しないはずがない。だが、力は俺のほうが上だ。抵抗をあっさり封じる。

『どうせ会えなくなるんだ。抱かせろよ!』

俺はあいつの着てるものを無理やり剥ぎ取った。

『どうして・・・』

『それは俺が聞きたい。どうして引っ越すんだよ!』

震える声で弥生が聞くが、本当に聞きたいのは俺のほうだった。
その言葉を聞いたとき、俺がどれだけ震えたか・・・弥生にはそれが分かっているのだろうか。
俺だけおいていかれたらこの気持ちはどうしたらいいのだろうか?


『仕方ないよ・・・。父さんの仕事があって・・・僕だって行きたくなかったよ。でも・・・だからやめて・・・』

『そんなの信じられねーよ!俺を裏切りやがって!絶対ゆるさねぇ』

あいつは絶対俺のそばにいてくれると思った。たとえこの気持ちが叶わなかったとしても、友達としていてほしかった。
でも、あいつは向こうに行くことを選んだ。あいつにとって俺はそれだけの存在だったのか?
そうだよな。もし俺が大事だと思うのなら、相談くらいするはずだ。そうだ、大事な友達だと思ったのは、俺だけなんだ。
その結論に至ってからは、もう止まらなかった。




『痛・・・河・・い・・・くん・・・止めて・・・やめてよ・・・』



『どうせもう会えないんだ。なら最後に・・・やらせろよ!』





その内容はここでは控えさせていただきたい。







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