あの後彼は俺を一睨みして、無言で帰った。そして翌日に転校していった。
親の予定が急変したとのことだったけど、嫌でも俺が原因だということは分かった。たとえ離れると分かっていても、一日たりとも自分を強姦した男と顔なんて合わせたくないだろう。それが普通だ。
う〜ん、我ながら鬼畜だったと思う。泣いてる顔を見るとますますいじめたくなっちゃってさぁ。なんつーの?そそるって奴?
だからどんどん泣かせてやったわけよ・・・と笑えたら、と思ってみる。


でも、終わったあと、俺の前から弥生が消え去った後、ものすごく後悔した。
どうしてあんなことしたんだって。転校すると聞いたときは頭に血が上って何も考えられなかったけど、冷静になって俺の血が凍った。
どうしてあいつが直前まで言わなかったか、ということを考えなかったことに気づいたんだ。
何かあると俺を頼った弥生がどうして今回ばかりは俺にも黙っていたか?それは・・・俺に言えなかったんじゃないか?俺に言うと反対することくらい分かっていたのかもしれない。
俺が怒ると思ったから・・・それなら俺は大馬鹿だ!なんて取り返しのつかないことをしてしまったんだろうか!どうした彼を解ってやれなかったんだ!
ひょっとしたら彼なりにシグナルを出そうとしたのかもしれない。だけど俺は自分のことで精一杯で、弥生を傷つけてしまった・・・俺は一晩ずっと泣き続けたのだった・・・。






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そんな苦い想い出を抱えている俺のため、この一通の手紙は嬉しいのと同時に、信じられなくもあった。
どうして俺を嫌いであるはずの彼が手紙を書くのだろうか。もし俺が弥生だったら、絶対そのようなまねなどしない。無視をする・・・そうに決まっている。
だけど、やっぱりそんな俺にくれたのは嬉しくて・・・。




『佐内弥生君、こんにちは。
お手紙有難うございます。本当にお久しぶりですね。綺麗な封筒だったので、正直誰かと思ってびっくりしました。
残念ながら俺にはそんな手紙をくれる知り合いがいなかったものですから(笑)。俺は元気でやってますよ。まぁ、馬鹿は風邪引かないといいますからね。
風邪のほうが逃げていくようで、俺はぴんぴんしています。

東京の春は・・・といっても、こっちの春しか知らないため何ともいえない部分はありますが。やっぱり寒いです。朝起きるのがいやになりますよ。
あと五分・・・そうやっているうちにたたき起こされて・・・そんな感じですね。まぁ、時々汗ばむ陽気のときもありますので、春も近いかなぁ・・・とは思いますが、今年の冬はまだまだ寒いです。
早く春になってほしいですね。

それはそうと、こっちに帰ってくるんですね。何年ぶりかな?こっちの学校なら地元の友達も通っているかもしれませんし、そうでなかったとしても案外どうにかなるものです。
あまり不安に思わないほうがいいんじゃないかな。佐内君の人柄だったら、相手のほうから寄ってくると思います

桜の綺麗な学校・・・この辺は桜の名所が多いのでそれだけでは分かりませんが、俺の高校も桜が綺麗ですよ。
桜花高校って分かりますか?俺はそこに行ってます。春になると次から次と桜が咲いていって・・・たぶん佐内君もそれを見れば気に入ると思います。
まぁ、こればかりは趣味で高校を選ぶことは出来ないので何ともいえませんが、もしこっちに来た際は立ち寄ってみてください・・・』



『出来れば案内もするから・・・』それは書けなかった。今更虫のいい話だ。自分から壊しておいて、仲直りしたいなんか言ったら、お前はどう思うだろうな?
でも、こんな俺に手紙をくれたんだ。少しだけ・・・期待してもいいよな。




『佐内君もこっちに戻ってからは忙しいかと思いますが、一息ついたら、偶然会うようなことがあれば、そのときは声くらいかけてください』



これだけ書き加えておいた。あまり多くを望んではいけない。でも、少しでもその偶然に頼ってみたい。それが悩みに悩んだ俺の結論だった。







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