04

桜花高校はその名の通り桜の名所だ。設立者が桜が好きだった・・・かどうかは俺には知らないけれど、春休みには見物客が多い。
だが、弥生の言葉には開いた口が塞がらなかった。



「そのために来たのか・・・?」


弥生は基本的におとなしい子だ。昔から花が好きだった。育てることよりも、外でありのままに咲いているのを眺めるのが好きならしい。
そんな弥生にとってはここの桜は一見の価値はあるだろうけど、進学に関係するのはさすがに・・・。


「いや、まさか転入することになるとは思わなかったけど・・・親が無理やり入れちゃってね。いい高校くらいは出ておけって。
河合くんはどこかいい大学にでも進む予定はあるの?」




「いや・・・気がついたらここに入ってた」



残念ながら志望理由については弥生を笑うことができないのは事実で、俺の言葉は冗談でもなんでもない。
学力的に合っている・・・それがないわけではないけれど、俺の場合は第一印象で選んだ。中学のガキが的確に進路など選べるはずがない。
それがよかったのかはどうかは今となっては分からないけれども。


「はは、河合くんらしいといえばらしいね。頭も結構よかったし。とにかく、今年はちょうど見れてよかったよ。
いつもは新学期が始まる前に散るらしいけど、今年はいいタイミングで見れたね」


「あぁ、東京はいつも暑いわけじゃないさ。今年はそれなりに寒かったからな」

彼の言うとおり、眼下には桜の海が全てを埋め尽くしてあった。屋上から見ると、校舎が洪水に飲み込まれるような気になってくる。
桜花高校は桜の名所として有名だが、このアングルで見ることはほとんどない。校外から見ることが多い。
ちょうど春休みに入ったころに咲き始め、いつもは新学期が始まる前には散り始めてしまい、満開を見るのは、本当に貴重だ。
あまり花に興味がないこの俺でさえもそう思うのだ。弥生はもっと喜んでいるだろう・・・。


「そうなんだ・・・まぁ・・・確かにちょっと教室も寒いけどね」

「・・・そうなのか?向こうはもっと寒いんだろ?」

「気温はね。でも、学校内はちゃんと寒さ対策はしてあるから、案外向こうよりも寒いと思うときもあるよ」

「ふーん・・・やっぱり上手くできてるんだな。そういえば・・・ちゃんと向こうで友達は出来たんだよな?」

久しぶりに会ったということもあってか、立て続けに俺は質問してしまう。
俺の知らない世界を知りたいということもあるけれど、弥生がどんな生活を送っていたのか・・・そっちのほうが気になった。
今なら答えてくれるだろうか?そんな俺に軽く笑いかける弥生。どうも俺は質問しすぎたらしい。


「わ、悪い」

「いや・・・変わってないな・・・と思ってね」

「は・・・?」

「前から河合くんは心配性だったよね」

はぁ・・・気のぬけた返事を俺はする。この学校では絶対ありえない評価だが、彼にとっての俺のイメージはそんなものだったらしい。
心配だったのは弥生だったからでしかなかったのだけれども。




(やっぱり問題だったかな・・・)



必要以上に俺は弥生に干渉していたのかもしれない。挙句の果てに、最悪な結果となってしまった。



「あぁ・・・あの時は・・・悪かった」



桜に呑まれて、俺の心も素直になれる。彼がいなくなって出来なく、ずっと謝ろうと思ったあのことを・・・俺は口に出す。







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