05

「あの時・・・?」




弥生が聞きかえす。話題が話題であるだけに、そして、俺の中にまだある迷いのおかげで口に出せなかったが・・・その沈黙で彼は察してくれたようだ。
和やかな空気が一転、急に弥生は悲しそうな顔になる。




「まだ・・・覚えてたんだ」



困惑気味に口を開く弥生を目の前にして、俺の決心は鈍る。
本当に俺は謝ることができるのだろうか。
恐くて逃げ出したりはしないだろうか。
だけど・・・もう逃げたくはなかった。




「忘れることなんて・・・できないよ。ずっと謝りたかった。でも・・・出来なかった!お前に逃げられたこともあったけど・・・」



それは俺の逃げだった。弥生が逃げたから、俺に謝る機会をくれなかったから。
自分を責め続ける一方で、その辛さをそうやってごまかしてきた。
弥生がいないから謝らなくていい、心のどこかで思っていたんだ。


「そんなのは後から手紙でも書けば出来たんだ。先生に連絡先を聞くことだってできた。
本当は・・・恐かったんだ。自分のしたことの大きさに気づいて、もう二度と口も利きたくないと言われたらと思うと・・・そう言われるのは当然なんだけどな。
それでもやっぱり恐くて。本当にごめん」


これはただの自己満足かもしれない。

俺は許してもらえるとは思えない。

あんなことは、許されるはずがない。

俺のしたことは犯罪なんて軽いものじゃない。弥生の心をめちゃくちゃに踏みにじってしまったんだ。
だから俺は・・・弥生の言うことなら何でも受け入れるつもりだ。




「もう・・・忘れよう。思春期の過ちだったんだよ」



彼の一言に俺の胸が鋭利な刃物で貫かれた気分になる。確かに俺のやったことは過ちだ。
弥生の気持ちなんか全く無視だった。
でも、自分自身を否定された様な気がして、身勝手に傷つく俺。



「ごめん・・・」


それでも俺には謝ることしかできなかった。

「いいよ、別に。これが女の子だったらいろいろと問題だけど、僕は女の子じゃないから、別にそこまで怒ってない。
それに・・・こんなことずるずる引きずって生きていても、僕も君も辛いだけだと思うから」


だけど、弥生の口から出た言葉は俺の想像とはかけ離れていた。
お前にとってそれだけのことだったのか?そう聞きたかったけど、出来なかった。
彼にとっては忘れたい・・・というか、無かったことにしたい出来事に違いないから。
女じゃないから、そんな問題ではないとおもう。だけど、彼が忘れたいのなら、弥生がその形での決着を望むのなら、俺は表では忘れることにした。

だけど・・・俺は決めていた。一生かけて罪を償っていくことを・・・。







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