07

俺の話に、先ほどまで笑っていた弥生から笑顔が消える。
それが嫌悪からくるものなのか、それとも真剣に話を聞こうとしているのかは分からない。
以前の俺だったらそのくらいわかったけど、距離が離れてしまった俺にはそれを知るすべが無い。
もちろん、恐い。だけど、自然と口から言葉が出ていた。今まで溜め込んでいた気持ち、謝りたくても謝れなかったこと・・・。




「ずっと後悔してた。何度も夜中目が覚めて・・・いつも何てことをしたんだ・・・って思うんだ。忘れようとしたことだってある。
でも・・・そうするたびにお前の顔が浮かんできて、どうしても出来なかった・・・」


それでも年明けになってからは落ち着いてきた。あの手紙が来たって少し感傷的になったくらいだった。
後悔しつつも『あぁ、そんなことがあったな』と思う程度だった。
だけど、弥生が実際に目の前に現れてから、見なくなった夢も見るようになった。


「今こうやってお前は話しかけてくれるけど、俺はそれが不思議でしょうがないんだ。
俺はお前にひどいことをしたんだぞ?普通は話したくないものだろ?
相手にしてくれなければそれで問題ないんだけど、前と同じように寄ってくるから、俺もどうしたらいいのかが解らないんだ・・・。
忘れようたって、無理なんだよ」


何もかも忘れることが出来れば、それは幸せなのかもしれない。弥生と一緒にいるのは心地が良い。
だけど、再び失うのが恐い。常に過去のことが頭の中に張り付いている。
お前は身勝手と言うだろうな。自分のほうが傷ついたのに、甘いことを言うんじゃないと思うだろうな。
分かってる。自分の気持ちを吐き出したから後は何を言っても構わない。どんな事でも受け入れられる。




「ずっと・・・苦しんでいたんだ・・・ごめんね。
ホントは、僕も忘れてなかったんだ。


忘れられるはずがなかった!


君に受けた傷はすぐに忘れた・・・というより、傷として残ったわけじゃなかった。
でもね、君のことはどうしても忘れられなかった。最初は無理やりやっていたときの君の顔が浮かんだんだ。
どれだけ君のことが憎かったか・・・そればかりは今となっては思い出せない。
だけど、君と離れて独りになっていると、段々悲しそうな君の顔が目に浮かぶようになったんだ。
君はどんな気持ちだったんだろう?どのような気持ちを抱えて僕を・・・。
みんな言いたい放題言っているけど、本当の君はすんごく優しい。他人を傷つけるくらいなら、自分を傷つけたほうがいい。



それは僕が一番分かってた・・・分かってたはずなのに」




彼はあの後にどのくらい辛い想いをしたのだろうか?俺のことを忘れるために、そうやってわざと前向きに持っていこうとして・・・。
でも、俺は弥生が評価するような人間じゃないんだ。




「俺はそんな奴じゃない。自分が知らなかったのが嫌で・・・それで・・・馬鹿な男なんだよ」



もう一度謝ろうとした俺だけど、『それ以上は言わないで』とでもいうかのように優しく弥生は微笑む。

「でも、それで君を傷つけちゃったから、おあいこだよ。だから僕たち、もう一度やり直せないかな?
僕も後悔してるんだ。本当はしっかりと向き合うべきだったのに、僕があの時逃げたから、僕も君もずっとあの日に縛られたままだ。いい加減前を向いて歩かなければいけないんだと思う。
だけどね、やっぱり独りじゃ不安なんだ。だから・・・君が力を貸してくれると嬉しい・・・」




「俺で・・・いいのか・・・?」



お前を傷つけた俺で。だけど弥生は静かに俺を抱きしめて首を振る。別に強い力ではないはずなのに、俺は身動きすることが出来なかった。







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