その2
入学式も終わり、俺は一人で廊下を歩いている。
なんとなく一人になりたかったのだ。
あいつと同じ名前(名字は違う)の少年。
まさかと思ったが、どうやら違うらしい。
イメージが違った。
生前の彼は清楚なイメージがあったが、夏樹は活発そうだった。
どうやら今年も生まれ変わることはできなかったか・・・。
それはともかく、夏樹はかわいかった。
が、妙にしっくりこないような気がしたのは気のせいか。
まぁ、そんな事は関係ないか。
生徒をそんな目で見るのはよろしくない。
そろそろ職員室に戻るか。
そう決めた途端、何か後ろから襲ってきた。
「倉科せんせい!」
おわっ!
何だこの生物は!
俺は思わず数メートル飛びのいてしまった。
本能的に危険を察知したのだ。
だが、敵のほうが一枚上手だった。
飛びのいても追いついて抱きついてくる。
誰かと思ったら、夏樹だった。
「なんだ、お前か・・・今まで何してたんだ?もう放課後なはずだが」
とっとと追い払いたくて聞く。だが、彼は底意地の悪いというか、邪悪なというか、そんな笑みを浮かべて死の宣告をする。
「先生僕と付き合って」
俺は今すぐここで気絶したかった。
そうすれば逃げれたのに。
だが、困ったことに、何故かできなかった。この感覚、初めて会う人に持つものではない。
どこか・・・懐かしい感じさえする。しばらく呆然としていると、夏樹のかわいい顔がにたぁと笑う。
怖い。実に怖い。だからそんな顔で笑うなって。
「だって、そういう約束でしょ」
約束・・・まさかそうだったのか。
他の人にそんな事をした覚えはないから彼が歩の生まれ変わりか。
同じ名前だったし、イメージも違うから逆にそれはないと思ってしまった。
覚えていてくれたのは嬉しいが・・・
「お前は俺の知ってる歩じゃなーい!悪霊退散!悪霊退散!」
と言いながらも、思わず十字を切ってしまった俺だった。
だから、そんなのは効果ないだろうと思っていた。
しかし、充分すぎるほど効果はあったのだ。
少年は黙ってしまった。目に深い傷を負いながら。
「今更言われても・・・迷惑だったよね。ごめんね・・・」
瞬間に俺は夏樹を抱きしめていた。
今見せた顔はまさしく俺が好きな歩だったからだ。
人格は変わっても、深いところは変わっていないみたいだ。
それを知って安心した。
昔と今の歩は違っていて当然なはずだ。
だが、すぐにはそれが受け入れられなかった。
俺の大好きだった歩ではないようで。
でも、少しでも前の歩が残っていてくれて嬉しかった。歩だということが分かったから。
これで今の夏樹も何とか受け入れられそうだ。
そういえば、夏樹は何も言ってこない。よく見ると震えている。ひょっとして不安なのか。自分を忘れられたようで・・・。
だから俺はこう言った。
「大丈夫だ・・・約束は有効だよ。それより・・・お前こそいいのか?俺で」
すると、抱きしめられたまま夏樹が言ってくる。
「うん・・・。だって、生まれてからずっと好きだったんだもん」
実に嬉しいことを言ってくれる。俺も人生の半分彼を好きでい続けた甲斐があったというものだ。
だが、この先妙に嫌な予感がするのは気のせいだろうか・・・。
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