その3


「よかったね。オーケーもらったんだ」



夏目が嬉しそうに言う。先に帰っていいといったが、待っていてくれたみたいだ。そこまで心配だったのだろうか。だけど、他人のことなのにここまで喜んでくれたのが嬉しい。

だから僕は返事の代わりにワイシャツの上から夏目の乳首をつまんだ。




「ん・・・」



夏目が声を上げて鳴く。
僕はこのときの彼のとろけそうで色っぽい顔がすきなのだ。
普段彼はこんな顔は絶対しない(だって、「仮に」他の人とするなら自分は絶対攻だと言ってたから)。
僕にだけこの顔を見せてくれるのだ。
しかも、どんどん感度がよくなっているような気がする。
だから僕はもっといい顔をさせたくて、ボタンをはずして直に触れようとする。




だけど、彼はそれを止めた。





「恋人いるんだろ?そんな事していいのか?」

そういえばそうだった。
僕には十数年越しの思いが通じた恋人がいたんだ。



だけど、それはそれ。



これはスキンシップのようなものだ。ずっとやってきたから今更止めることもできない。


「大丈夫だって。浮気にはならないから。別に夏目には挿入れないし〜。安心して?」

「仕方ないな〜。だけどここでするのはまずいだろう」




仕方ないと言いながらも鼻歌まじりでいそいそと帰り支度をする。嬉しいみたいだ。
普通、このような行為は恋人同士がするものらしい。だけど、僕らの間では意味合いが違う
(と僕は思っている)
お互いの友情
(と言っても何かしっくりこないけど)を確認する行為って感じかな。
いつから始めたかは覚えてはいないけど、気付いたらこれは習慣となっていた。
直に夏目に触れていることで、僕は安らぎを感じる。彼を気持ちよくさせると僕もなんか嬉しい。
だって、くどいようだけど僕にとって夏目は倉科先生と同じくらい大切な存在だから。
今までずっと支えられてきたから、僕もそれを返したい。

もちろん、義務でやっているわけではない。

そんな事をしたって惨めだからね。だから僕も好きでやっている。
いつもはかっこいいのに、感じていると何かかわいくなる。
そんな夏目を見るのが好きだから、もっとあちこち攻めて、焦らして泣かせてしまいたくなる。




でも・・・不思議だけど、どんなに大切な親友でも、夏目以外だったらやらないような気がする・・・。




早速二人で僕の家に帰り、僕の部屋に案内する。
万が一、親が帰ってきても、夏目は両親と知り合いで、仲もいいから問題はない。ごまかすことは簡単だ。
その夏目はというと、ベッドの上に座っている。視線がさまよいまくっている。緊張しているのだろか。いつものことなのに。なんかほほえましい。
僕はそっと彼の服を脱がせた。そこから整った体が姿を現す。無駄な筋肉はついていないが、だからといって貧弱ではない引き締まった身体である。抱きしめられるのは結構心地がいい、そんな身体。

僕は首筋、鎖骨に唇を押し付ける。
そのたびに彼の身体が震える。
それだけでも感じてくれているのが嬉しい。
そして彼の胸についている突起を手でいじくる。



「・・・ぁ・・・」


夏目の口から甘い声が出る。
僕はもっと聞きたくて、口では噛んだり舌で転がしたりし、もう一方の突起は、右手でいじったりもした。


「あ・・・あん・・・いぃ・・・」

甘く切ない声が聞こえる。夏目はうっとりと、だけど泣きそうな顔をして鳴き続ける。
その顔は次をねだっているようにも見える。これ以上いじめるのもかわいそうなので、そろそろ次の段階に移ってもいいだろう。
僕はズボンを脱がし、彼のものに手を添えようとした。だが、意外というか、やっぱりというか、またもや夏目はそれを制する。


「ここからはもうだめだ」

ええ?なんで?今までは拒みもしなかったのに。何でだろう。すると夏目は真剣な目つきで言う。

「ずっと思い続けてきた恋人がいるんだろ?俺とこういうことをやってることを知ったら先生は嫌がると思うよ」

僕は何も言い返せなかった。
普段なら軽口を叩いて何とかごまかして次の段階に進むんだけど、今日はどうしてもそれができなかった。
彼の瞳にはそれを封じてしまうほどの思いが込められていたのだ。
承諾しなければ許してくれないだろう。だからしぶしぶ僕はそうした。
そしたら、やっと夏目は笑ってくれた。





でも・・・その笑顔はなぜか儚くて、散ってしまいそうなものだった・・・。



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