その4

俺たちが付き合ってからすでに一ヶ月がたつが、俺の不安は見事に的中してしまった。



歩の性格が悪すぎる。



学校内では結構いい生徒でいてくれるので楽だが、学校が終わると凶悪になる。
それが暴力的な意味での凶悪ではないから、さらに厄介である。
俺をからかって遊んでいるのだ。他の教師がいるのに抱きついてくるのなんて日常茶飯事である。
そのせいか、他の教師も慣れてしまったようである。特別扱いさえしなければ付き合おうともいちゃつこうとも構わないなんて事を言われてしまった。
とにかく、教師を諦めさせるほどのスキンシップなのである。
しかも、相手にしないと拗ねてくる。それがまた愛しい。俺はどうやらこの性格も好きなようだ。







今日は歩とデートをしている。押し切られた形となってしまった。
だが、仕方ない。学校ではあまり特別扱いにはできないし、デートは自分もしたいと思っていたから。
ただ歩の思い通りになるのがいやなだけで。
他の教師に見つかったら職員室のお茶うけのねたにされるのは目に見えているので、偶然会ったことにすればよい。
幸いなことに家も近い。だから、ごまかすことは簡単だろう。




それで歩が納得するかは別として。




しばらく一緒に歩いていたが、俺はある人物を発見して思わず立ち止まった。


「久しぶりだな、倉科くん」

「はい・・・秋本さんもお元気そうで」





この男性は秋本博という。彼は歩の前の恋人だった。今は四十すぎているようだが、それでも若々しい。
秋本さんは本当に歩を大切にしている人だ。歩が亡くなり、新しい彼氏ができても、歩との思い出を大事にしているのは分かった。
だから、歩の三回忌のとき、俺は秋本さんに誓ったのだ。もし歩が生まれ変わることができたら俺は歩を幸せにするということを。
彼はそれを許してくれた。だから彼は俺の恩人でもある。
しかし、俺は彼に歩と恋人同士になったことを言ってなかった。だから俺は怖かった。約束を破った奴に思われるのが。今の歩が同一人物だと思うのは難しいだろう。そう思っていると、秋本さんが歩に声をかける。






「幸せか?」





うん、と歩が言った。それを聞いて安心したのか、秋本さんが微笑む。

「よかったな・・・歩」

当然のことながら俺と歩は驚いた。
まさか歩だと分かるとは思わなかったのだ。
歩の驚きようから言えば、俺の知らないところで二人が会ったという事はまずないだろう。
その疑問を察知したのか、



「俺が歩を分からないとでも思ったか?」


自身ありげに答える。
歩もかつての恋人に会えて嬉しいようだ。
遠慮しないで彼に抱きついている。
秋本さんの歩を見る目は優しさにあふれている。


「ごめんね・・・ごめんね・・・先に死んじゃって」

歩は泣きながら謝った。それに対し、秋本さんは少し拗ねた口調で言った。

「お前が先に死ぬから、俺がどれだけつらかったか分からないだろう。二度とこんなことをするなよ」

うん・・・と歩は小さい声で言う。しばらく二人は抱き合っている格好だったが、やがて歩を解放し、秋本さんは言う。




「こいつをたのんだよ」




返事をする時間も与えずに彼は去っていった。歩はずっと彼が去っていった方向を見つめていた。

「よかったな、秋本さんに会えて」

「うん。今までずっと謝ることができなかったから・・・」

そういう歩はなんか頼りなかった。だから俺は抱きしめた。





人通りが多かったが、そんなのは全然気にならなかった・・・。




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