その8


どうしても気付かないのか。これではあまりに夏目が不憫なので、俺は禁止されていたことを言った。
それが自分にとって不利でしかないと知っている。



しかし、どうしても止めることはできなかった。



「あいつには言わないでくれって頼まれていたが・・・お前のことが好きなんだよ。



俺と同じ意味で。



夏目は義務ではなく、好きでお前のそばにいたんだよ。
だから、お前が言ったことは、夏目を充分に傷つけたんだよ。
もともと俺が恋人ってのもあるから、必死に想いを封じ込めてたんだろう。
だから学校生活ではずっとお前の隣にいたかったんだよ・・・それをお前は・・・」






歩は相当ショックを受けていたようだ。
夏目が自分のことを好きだからか、自分がそれだけ彼を傷つけたことが分かったからなのかは、分からないが。
すると、歩は何かを決意したようだ。


「ごめん、先生・・・。僕、夏目のところに行ってくる!」




十分に想像できる答えだった。





いや・・・それ以外に考えられなかった。





歩は必死に夏目の想いに答えるつもりだろう。夏目を繋ぎとめるために。
それがかえって夏樹を傷つけることにもなるというのに・・・。
それに、俺は歩を愛している。夏目の元になんて行かせやしない。だから歩が出て行こうとするのを止めた。


「まだ分からないのか!そんな軽々しい思いは逆に夏目を傷つけるんだぞ。夏目の想いに答えるつもりがないなら、行くんじゃない。



それに、俺はお前の恋人だ。このまま夏目とくっつくことを許すと思っているのか?」


すると、泣きじゃくりながら歩が言う。

「ごめん・・・ごめんね・・・。僕は・・・どうしても夏目を失いたくない。
今更虫のいい話だって事は分かってるけどっ!
先生を手に入れたのに夏目がいなくなるなんて・・・そんなのいやだ!
僕には夏目だけがいてくれればいい。夏目がそばにいてくれるなら何でもする!




たとえずっと交わした約束を破ることになったとしても。




誰に嫌われ、ののしられようとも!




もう答えは見えているじゃないか。
俺は同じ相手に二度も失恋をしたのだ。
引き止めたい気持ちも山々だが、そうするとみんな幸せにはなれない。


俺も損な役回りである。


二人を結び付けようなんて。
だが、俺のことを気にして行くのをためらったので、俺は言った。精一杯の笑みを浮かべて。


「行ってやれよ」




歩は、何度も謝りながら学校を出た。




俺は独りだけになって、やっと泣くことができたのだった。





あふれ出る涙は、止まることを知らずに静かに、いつまでも流れ続けた・・・。




next