その12

母さんも凍りついていたらしく、何も言わなかった。
だが顔が相当青い。ショックを受けているのだろう。僕は母さんが我に帰るのを待って言った。


「つまり・・・母さんが見てたとおり・・・僕たちはそういう関係なんだ」

どうも一緒にいた時間が長すぎて、恋人同士という言葉はしっくりと来ないけれども、そう説明しておく。
母さんは何も言わない。やっぱり男同士だからなのだろうか。


「ごめんね・・・男同士で。孫の顔を見せてやれなくて」



「そんなの、人類全てが認めても私は認めないわ!絶対に!」



ものすごい形相で母さんが怒る。
いつもこんな怒り方はしない。
だからものすごい迫力がある。
そこまで気持ち悪いことなのか・・・。
僕はショックだった。
大好きな母さんなら僕のことを分かってくれると思っていたのに。
悲しくて涙が出そうになる。
だが、そんな事は知らないといった風に母さんが続ける。


「たとえあんたが私を嫌っても、私は徹底的に阻止するわ。だって、





あんたじゃ士郎くんを幸せにすることなんてできないんだから







士郎ってのは夏目のことだけど。
それより・・・言いたいことが分からないんですけど。
いや、少なくともこれだけは分かる。
周りには僕の味方はいないの?みんな夏目の味方になっているような気がする。




先生もそうだった。





「士郎くんはずっとあんただけを見ていたのよ。
見てるほうがつらくなるほど。もしかしてと思ったわ。
だけどなかなか尻尾を見せないから、酒で酔わせて白状させたの」


いつそんな事をしたのか。もしかして、先生の家に泊まりに行った日か。
実は一回だけ僕は先生の家に泊まりにいたことがある。大した事はしなかったけど。


「と言っても、最初はパパと仕組んだ悪巧みくらいのノリだったけどね。





士郎くん、泣きながら白状したわ。





それで酔いがさめたら私たちに何度も謝ったの。





それで、忘れてくださいって言ったから、忘れたことにしたんだけどね。
ただ、あの日から私たちは士郎くんの味方に回ったの。
本当は歩をやってもよかったんだけどね。
でも、あんたと付き合っても士郎くんを泣かせるだけでしょ?
だから、士郎くんも別な人を選びなさい。
あなただけを好きだと言ってくれる人を。
こんな十数年も好きな人がいたくせに、乗り換えるような奴や、自分を好きな人に対して、ずっと好きな人がいると言うような奴はほっといて」


母さん、そこまで僕のことを根に持っているのですか。すると、しばらく沈黙を守っていた夏目が重い口を開く。

「ごめんなさい・・・。俺・・・もう歩と離れられないみたいです。たとえ歩に好きな人ができても。だから・・・歩を・・・」

ください・・・と言いかけたが、母さんに止められた。

「そう・・・。納得出来ないけど、士郎くんが幸せならいいわ。歩、士郎くんを幸せにするのよ」

母さん・・・最後まで夏目の味方なのか。一応僕は息子なんだけど。不機嫌な表情をしたのに気付いたのか、こちらを向き、答える。






「何言ってるの?あんたは私のかわいい息子よ。たとえ前がどうであってもね・・・」






まさか・・・僕のことを。だけどそれを聞くことはできなかった。

「そうねぇ・・・後で士郎くんのご両親に報告しなきゃ。士郎くんをうちの息子の嫁にくださいって。快諾するわね、きっと」

夏目は嫁・・・やっぱりそうか。
僕もそう思っていた。
まぁ、僕が嫁でもいいんだけど、夏目のほうが似合うかも。
それより・・・本当にご両親は快諾するのだろうか?


「するわ。だって、前からうちの士郎をもらってくださいって言っていたから。まぁ、本人たちがどうか分からないから保留してたんだけど・・・婿のほうがいいかしら?」

「俺が嫁・・・まぁ、いいや。幸せだし。ありがとうございます・・・陽子さん」

「気にしなくてもいいのよ。あなたみたいに純情な息子が欲しかったから、ちょうどよかったのよ。
私たち似たもの親子だからね。歩、どうせ泊まってくんでしょ。お泊りセットを持ってきたわ」


実に用意のいい母親である。昔からこの人は妙に行動力があるのだ。
父さんにその武勇伝を聞かされたときには戦々恐々したものだった。


「そうねぇ・・・私はお邪魔だから帰るわね。このことはパパにも言っとかなくちゃ♪」

妙にハイテンションで母さんは出て行った。何でここに来たのかなんてどうでもよくなるほどの・・・。
すると、夏目が抱きついてくる。


「よかった・・・認めてもらえて。見られたときはどうなるかと思った」

「僕から見れば・・・反対したのが意外だったけど。
あの人結構面食いだからすんなりと認めてくれると思ったのに。
それはいいんだけど、一応僕は息子だから扱いをよくしてもいいと思うのは気のせい?夏目のほうが扱いがいいし」


「ははは。俺は一応他人なんだから気にしちゃだめだよ」

それよりも僕は気になっていたことがあった。




「母さんは・・・僕のことを知ってたのかな?」




「さぁ?でもいいんじゃない。歩は陽子さんの子だということも、今こうして俺の腕の中にいることにも変わりはないし」

ありがとう・・・僕はその言葉がほしかったのかもしれない。
結局、どんなに前世にこだわっても、今僕は夏樹歩なのだから。
礼を言う代わりに僕は夏目にキスした。急にしたせいか、夏目の顔が真っ赤だった。
それから僕らは一緒に寝た。ほんとは色々なことをしたかったんだけど、今はただ一緒にいるだけで十分だった。
いつのまにか夏目の寝息が聞こえる。幸せそうな寝顔だ。ずっと見ているのもよかったが、学校があるので寝ることにする。




いい夢を見ることにしよう・・・。




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