その13
あれから歩が戻ってこなかったから、夏目とは上手く行っているのだろう。
その証拠に、二人の仲が元に戻っている。
それどころか、以前にも増して熱い空気が漂っているのは気のせいか(しかも席が隣同士である)。
愛の力は偉大というしかない。だが・・・俺はこっそりと後ろから二人の間に忍び寄り、出席簿で二人の頭をはたいた。
ぎゃっという声とともに、二人同時に机に沈む。俺は凄みをきかせて言った。
「おまえらぁ〜いちゃつくのは大いに結構。
だが、せめて俺のいないところでいちゃついてくれ
」
だが、最後のほうは懇願してしまった。
クラスから笑いの渦が巻き起こる。
だが、当の本人たちは反省しているようだ。しゅんとしている。
俺は密かににやりとした。
これから二人をいじめるのは面白そうだ。
この俺を振ったんだ。教師の権限を最大限に利用させてもらおう。
すると、誰かがこんなことを言う。
「先生、男の嫉妬はみっともないですよ」
さらにクラスが笑いの渦に巻き込まれる。当の二人も爆笑している。だが、開き直った俺はとことんふてぶてしいのだ。
「悪いか。俺は振られて落ち込んでるんだ。
本当は休みたいところを無理して来たんだ。
幸せな奴の邪魔して何が悪い!
それくらいは俺にだって権利はあるはずだ」
皆さん、確かにと頷く。歩たちは赤くなっている。
「ということは先生はフリーなんですね」
「そうだ。だから彼氏募集中。彼女でも可といったところだ」
みんなしっかり冗談と受け取ったようで、笑ってくれる。
俺のほうも笑ってしまった。
二人が結びついたのを見るのはまだつらいが、笑っていられるのでたぶん平気だろう。
だが、彼らをいじめるのは止めない。やっかみもあるが、実に楽しいのだ。
当分は俺の退屈しのぎとなるだろう・・・。
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