8.

あー腰が痛い・・・そんなぼやきを口にしつつ、広岡は登校する。
心地のよい気だるさではあったが、あまり動きたくないことも確かだった。
三上には好き勝手に貪られたため、喪失感が彼の大部分を占めている。




(はぁ・・・俺ってばお嫁に行けない)



それが気持ち悪ければ、ある意味よかったのだが、そうでないから困る。
これから先どんな女を見ても反応できないのではないか・・・すごく心配だった彼。
だが、教師たる者それを見せるわけにもいかない。三上が知ったら馬鹿にしそうなため、怠けたいのを無理して、いつものように出席簿を読み上げる・・・が。


「三上は欠席か?」

と、昨日まで一緒に寝ていた少年がいないことに気づく。彼が恥ずかしいから休むような人には見えなかった。
そんな弱みにつながりそうなことを行うはずがなかった。彼なら恥ずかしがらずに平然とすることを選ぶだろう。


「あれ?さっき見たはずだけど・・・」

香川の話では、朝見かけたらしい。確かに鞄もそこにある。

「先生の授業が嫌なんじゃないの?」

と香川がねちっと広岡を突っつく。
どうも彼も三上に似てきたような気がするのは気のせいだろうか・・・指摘したところで双方とも嫌がるだろうからやめておいた。
余計なことはすべきではない。


「まぁ、いい。トイレ行ってるだけだろう・・・」

場を丸く収めるためにそう言っておいたが、それがありえないことであるのは、広岡がよく分かっていた・・・。





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「広岡先生、私、嫌われてるんでしょうか・・・」

首をかしげていた広岡に困り果てた顔で同僚の村瀬が声をかける。
彼女はかなり忍耐強い性格のようで、三上の被害に遭ったことがないはずはないのだが、今まで泣き言を言うような事はほとんどなかった。


「嫌われてるって・・・どういうことですか?」

「えぇ、先生のクラスの三上君のことなんですけど・・・」

それで彼は納得する。三上はまだ授業に出ていないらしい。それを彼女はそう受け取ったようである。

「多分、先生が原因だとは思わないですけど・・・」

「でも、何か悪いことでもしたのかと」

「いやいや、村瀬先生は悪くはありませんよ」

そう言ったのは広岡ではなく、初老の教師、平山だった。
彼は昨年度三上を教えていたため、広岡は彼に対処法を教わっていたことがある。


「三上は気に入らなかったからといって授業を放棄するような生徒ではありません。
彼は・・・まぁ・・・性格はきついですけど、人一倍努力をする子です。たぶん理由は他にあるんだと思います。
あまり気を落とさぬよう」


はぁ、そうですか・・・三上を一年間教えていた平山に言われ、彼女も安心したのだろう。ほっと一息ついて自分の席に戻っていく。

「三上、大丈夫でしょうか・・・」

平山に聞いてみた。彼なら何か分かるような気がした。

「さぁ。私にはなんとも。でも、守谷が言っていたことがあります。どうも何かあると屋上に行くみたいですね・・・」

心配している広岡を見かねて言ってくれているようだった・・・。





平山に言われたとおり、広岡は屋上を覗いてみた。
数日前に雪が降ったような寒い気候では誰もいないかと思ったが、三上に一般の感覚を求めてはいけない。
彼はかなり規格外だ。本人もそれは認めているだろう。


(まぁ・・・いるわけがないか・・・)

だが、このような気温が氷点下の日にいるのは、無茶というものだ。
ぬくぬくとサボるなら、保健室を当たる可能性が高い。
三上もその辺はうまくやるだろう・・・そう結論して屋上を後にしようとしたが、人影を発見してしまった。
その人物は確認するまでもなく三上だったが、立っている場所が問題だった。




(何でそこにいるんだよ・・・)



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