2話

南少年は高校当時から浮いた存在で、男に好かれにくいタイプの少年だった。
彼と友達になろうとする奇特な人は存在せず、当の南自身も友達を望まなかった。望んだのは女との交接である・・・と言われたほどだ。
一人の女の子と付き合い続けるのならまだしも、常に違う女の子が彼の側にいて、その場限りの付き合いばかりだったことは周知の事実であった。
そんなだから、彼が休みでもすると、真偽はともかく女との情事に耽っているのではないかと噂になるのである。


森川自身もそんな人のうちの一人だった。
彼は大別すると真面目というカテゴリに収まるので、大多数の女と淫らなことをする(であろう)南が好きになれなかった。
だからといって、性行為をするのもしないのも自由であるので、あえて注意するつもりもなかった・・・というと非常に聞こえはいいが、実際のところは彼もまた皆と一緒で、わけわからん男に関わりたくなかったのである。


しかし、運命とは非常に残酷なもので、嫌でも関わる日がきてしまった。プリントを届けるという「お約束」のためである。
小学校ならまだしも高校でそんなことが必要なのか、必要だったのである。
教師のミスで配布が遅れてしまい、それが生徒に届いたのは提出の二日前だったのである。
しかも、そういう時に限って、内容が極めて重要・・・という、どう考えても仕組んだんじゃないの?というお約束の展開。
その生贄には森川が選ばれた。決め方は簡単、じゃんけんである。
これなら公平なため誰が負けても文句の言いようがないが・・・見事に彼は敗北してしまい、嫌々ながら渡された住所を片手に南の家へ向かったのであった・・・。






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友達ならまだしも、友達でない人の家に行くのは極めて緊張するものだ。
森川ですら妙に緊張して、『プリントをどこかに捨ててしまおうか』などと思ったほどだ。
とはいえ、そんなことをしたらあとで怒られる。同級生の家に行くのとは不釣り合いな覚悟を決め、チャイムを鳴す。
しばらくすると、咳き込みながら南が出る。噂されたようなエロいことが理由ではなく、病気で休んでいたようだ。
いつもと違い髪の毛は整っていなく、パジャマであり、なおかつ顔も火照って赤いため森川は内心かわいいと思ってしまう。
それにしても病気とは恐ろしい。人間をここまで無防備にさせ、ここまで変わるのだろうか・・・例えるならドーベルマンがゴールデンレトリバーに変わったような感じである。
そんな変化に妙な感慨を覚えつつ、意外にも『せっかく来たんだから』と入るようにいわれたので遠慮なく上がらせてもらうと、そこは惨状だった。
死屍累々という言葉が実に似合っている。あたり一面脱ぎ散らかした服の山・・・まぁ、それはいい。病気なら洗濯できないのもあたりまえである。
しかし、このカップラーメンおよびコンビニ弁当の残骸は一体何だ?いくらなんでも限度がある。
もしかして・・・森川はそう思って冷蔵庫を開ける。案の定そこには何も入っていなかった。よくマンガである『冷蔵庫を開けたらビールだらけ』でなかっただけ、ましなのかもしれない。




「はぁ・・・お前はいったい何を食べて生活しているわけ?」



嫌味たっぷり、盛大なため息をついたが、南に堪えた様子はない。さらりと言う。


「みんな作ってくれるから」

どうも付き合っている間は至れり尽くせりであったようだ。まぁ、この顔ならそうしたくなるかもな・・・ついつい納得してしまった。


「はいはい。それならここ最近はどうしてあんなものを食べてたんですか?」


それなら、今作ってくれる人はいないのか?


「俺は人間じゃないんだとさ・・・」


聞いていることと答えていることがぜんぜん違う。だが、南と会話すること自体珍しいことなので、あえて向こうが続けるまで待った。


「誰だか忘れたけど・・・この前まで付き合っていたやつに言われたよ。いや、これまで付き合っていたやつにも。俺は冷たくて、機械じゃないかってさ」



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