7話

いつも何だかんだでお世話になっている神崎に『兄でいいから俺のことを見てくれないか』などと真剣な瞳をして言われれば、断れるはずがない。名目上ではあるが森川と神崎は付き合うこととなった。
付き合うということは恋愛感情が絡むわけで、神崎にからかわれると恐れていたが、実際付き合ってみるとそうされることは全くなく、逆に不気味なくらい彼の優しさが溢れてくるのを実感する。
まともに話すようになったのは、かつて恋人であった桐生が亡くなった後から・・・というのは皮肉な話だが、そのことがあってからは妙に自分に接する態度が変わったことを思い出す。


(そういえば、初めて会ったときは、俺を敵視しまくってたな・・・)


今では普通に会話できるが、当時は怖くて近寄れなかったものだ。だが、同じ愛する存在を失った者同士ということで、思うところでもあったのだろうか。
今まで知らない間にこうやって守ってもらっていたかと思うと、なんだか心が温かくなるのである。
なし崩しだけど、このまま恋人になるのもいいかなと思ってしまう。さすがにそれは恥ずかしくていえなかったが・・・。

神崎のほうも、ほのぼのとした幸せを送っていた。
最初は森川を幸せにしてやりたいからだった。
自分の大好きだった従弟が最期まで愛した男(だと思っている。それはあながち外れていない)の傷を癒してやりたかった。
しかし、それとは関係なく、森川自身を段々好きになっていく自分を感じる。
好きな人にはとことん甘やかしてやりたい、そんな自分があったことに気付き、苦笑する。まるで自分ではないようだ。
しかし、彼らが本物のカップルになるのは時間の問題であった・・・。





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そんな光景に対し、一見反対するような人はいなかった。
もちろん神崎に反抗ができるものはいなかったこともあるが、この二人は見ていてほのぼのとしているのが主な理由だった。
別にいかにも恋人同士ですよというほどラブラブな空気を放っているわけではないが、いつも人をいじめている(虐げているともいうべきだが)神崎からは想像できないほどの甘い顔をするため、見ているほうも呆れを通り越して心が温まるほどである。
実にいいカップルだと周りが思ったのである。

しかし、どこにでも例外がある。それが南である。
別に交際宣言はされていないので、彼らが本当に付き合っているかどうかまでは彼には解らなかったが、それでも親密な関係になっていることくらいは理解している。
この二人を見ているともやもやしてくるうえに、泣きたくもなってくる。心臓が握りつぶされるような感覚さえある。
結局、寂しいのだ。普段自分の気持ちにはとことん疎い彼も、それには気付かずにはいられなかった。
いつも一緒でいた森川が他の人のものになるのは、あまりいい気持ちではない。



(またあの思いをしなければならないのか・・・」



一人で物思いに耽る。初めて家に来たその日から森川は特別な存在だった。
自分を初めて人だと認めてくれた人だったから。誰かと一緒にいるということが嬉しいということを教えてくれた人だから・・・。
そんなだから、どんなに自分が女と付き合っていても、ずっと自分の側にいてくれるものだと思っていた。
しかし、それはただの夢でしかなかったことを思い知ったのは、森川に好きな人が出来たときである。
はにかみながら桐生の話をする彼を見ていると、今のような気持ちが込みあがってくるのだった。
その相手から奪ってしまいたいと思ったこともある。
だけど、自分が女と付き合っている手前、そんなことを言えなかったし、恋愛に全く疎い南が心の奥深くである感情が湧き上がってくるのを無意識に封じ込めていたのだ。
その上相手は男である。どうして横から奪わなくてはいけない?
ここで南は森川の好きな人が男だったことを思い出す。彼から会いにいったことはほとんどなかったため、桐生のことは頭から抜けていた。
南は同性愛というのはあまり好きではない立場だったけれども、真剣にそのことを言う森川を見ていると、そういうのもアリなんじゃないかと思ってくる。

そういうことか・・・ごく自然な流れで南は全てを理解していた。どうしてあの時森川が怒っていたかを・・・。
二人が付き合ってから桐生が亡くなるまでの短い間を自分は否定しまったことになるのだ。南に苦い気持ちが浮き上がってくる。
無理矢理抱いてしまった上に、そうやって止めを刺してしまった・・・。
これでもう友達にすら戻ることも出来ない。いや、そもそも向こうはそう思っていてくれたのかどうか・・・。
きっと義務感で自分の世話をしていただけじゃないのだろうか。

どちらにしろ、今の自分に出来ることは神崎と森川を影から応援することだけだった。



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